アニメーションダンスとは|歴史・ルーツ・発祥と2つの系統について

アニメーションダンスを習得するポイントを全12回にわたって解説していくシリーズの第1回目です。

アニメーションダンスとは|歴史・ルーツ・発祥と2つの系統について

アニメーションダンスを基礎から学ぶために最初に取り組むべき事は何でしょうか。

それは「アニメーションダンスの構造」を理解する事です。

なぜなら「アニメーションダンスの構造」を理解する事によって、全体像を捉えた上でアニメーションダンスに取り組む事が出来るようになるからです。

そこでアニメーションダンスを習得するポイントを全12回にわたって解説していくシリーズの第1回目は、“アニメーションダンスの歴史”にスポットを当てて解説します。

アニメーションダンスの歴史のルーツを紐解いていくと、アニメーションダンスが2つの系統に分かれている事が見えてきます。

1984年=アニメーションダンス元年

アニメーションダンスがストリートダンサーの間で知られるようになったのは、1984年公開の映画「ブレイクダンス」(Breakin’)の中で、ブガルー・シュリンプ(Boogaloo Shrinmp)がほうきを使ったソロパフォーマンスをするシーンがきっかけでした。

クラフトワーク(Kraftwerk)のツール・ド・フランスの曲に乗せて、冒頭からほうきを左右に振りながら掃除をするしぐさをモチーフに、ロボットの要素とカートゥーン・アニメーションの特徴である、パラパラ漫画を細かく滑らかに映し出した動きの要素を組み合わせた“流れるように動くロボット”を披露しますが、このブガルー・シュリンプのソロパフォーマンスシーンを起点としてアニメーションダンスが世界へ拡散していく事となります。

この映画「ブレイクダンス」では、作品内の随所でブガルー・シュリンプのアニメーションダンスを見る事が出来ると共に、バトルの対戦役として出演しているポッピン・タコ(Pop’N Taco)のセンセーショナルなウェーブやスネーク(コブラ)、アニメーションスタイルも見る事が出来ます。

“ブレイクダンス”の呼称

歴史の評価が定まっていなかった1980年代は、海外のメディアを中心に、これまで見た事のない身体の使い方で機械的に動いたり、身体を弾いたり、くねくね動かすダンスのジャンルの事を総称して「Breakdancing」と呼ばれていました。

一方、日本のメディアは海外とは少し異なり、機械的に動いたり、身体を弾いたり、くねくね動かすダンスと、映画のタイトルの「ブレイク」が「壊れる」の意味として捉えられてしまい、”ブレイクダンス(身体が壊れたように踊るダンス)”と呼ばれていた時期がありました。

結果としてこれらの呼称の使い方は誤りで、後にオールドスクール3大ジャンルの「ポッピング」へと修正され、その配下にポッピングやウェーブなどと並列する様々なスタイルがある中の一つとして「アニメーション」が位置づけられていく事となります。

映画「ブレイクダンス」の特徴

全米で映画「ブレイクダンス」が公開された1984年5月前後の時期というのは、「ワイルド・スタイル」(1983年3月)や「フラッシュダンス」(1983年7月)、「ビート・ストリート」(1984年6月)など、ストリートダンスに影響を与える映画が立て続けに制作されましたが、映画「ブレイクダンス」が上述した映画と異なる点は、描かれたロケーションがウエストコースト(西海岸)だったという点です。

当時のウエストコーストのストリートダンスシーンは、ポッピングの宗家家元であるエレクトリックブガルーズ(Electric Boogaloos)がウエストコーストのカリフォルニア州ロングビーチを本拠地としていた事からその影響が色濃く反映されており、イーストコースト(東海岸)のストリートダンサー達がブレイキングを重視したフロアムーブ中心だったのに対し、ウエストコーストではポッピングやロッキングなどの立ち技を重視していたのが特徴的でした。

この映画「ブレイクダンス」に出演した主要キャストを見ても、ロッキングの宗家家元であるロッカーズからシャバ・ドゥ(Shabba Doo)、ポッピングの宗家家元であるエレクトリックブガルーズからポッピン・ピート(Popin’ Pete)、そして前述のブガルー・シュリンプ、ポッピン・タコと、主に立ち技を得意とするダンサーが起用されている事が分かります。

マイケル・ジャクソンの功績

この映画「ブレイクダンス」に出演していたブガルー・シュリンプとポッピン・タコの2人のアニメーションの表現に着目し、いち早く自分の表現へ取り入れたエンターテイナーがいます。

それがマイケル・ジャクソンです。

マイケル・ジャクソンがアニメーションダンスの歴史の文脈で残した最大の功績は、アニメーションダンスを地球規模で広めた事です。

Human Nature、Billie Jean、Stranger In Moscowなど、マイケル・ジャクソンが自身のここぞという見せ場で披露していたアニメーションダンスは、現代の感覚で当時の映像を見ても心にぐっと迫って来る凄みを感じます。

2人のレジェンド

マイケル・ジャクソンのダンスのクリエイティブの方向性を決定づける事にも大きな影響を与え、そして今日のストリートダンスにおけるアニメーションダンスの原型を創ったのは、ブガルー・シュリンプとポッピン・タコの2人です。

ブガルー・シュリンプは、1983年から1991年までマイケル・ジャクソンのソロパートのアドバイザー(パーソナルポッピングインストラクター)として、Billie Jeanのライヴ終盤のブレイクダウンにおけるソロパートを始め、ムーンウォークを含む一連のパフォーマンスを完成度の高いレベルまで引き上げる仕事に携わっています。

ポッピン・タコは、1983年から1997年までマイケル・ジャクソンのパーソナルダンストレーナー(クリエイティブコンサルタント)として、ポッピングとアニメーションの全てを伝授しています。

2人のレジェンドが研究していたダンススタイル

ブガルー・シュリンプが自身の表現のインスピレーションの源として幼少期から研究していたのはロボットでした。

ストリートダンスにおけるロボットダンスは、全米で当時の最先端のストリートダンスを発信していた音楽番組「ソウルトレイン」で1970年代初頭にロボットを踊るストリートダンサーが登場し始めた事がきっかけとなり徐々に浸透していきましたが、一般的には1973年の同番組において、当時ジャクソン5のヴォーカルだったマイケル・ジャクソンが新曲「Dancing Machine」のライヴパフォーマンスでロボットを披露した事により全米の若い世代がロボットをやり始めるようになった事から本格的に浸透しました。

ロボットダンスが全盛期を迎えていた1970年代後期におけるロボットの動きといえば、各部位の可動範囲を主に左右(X軸)・上下(Y軸)・前後(Z軸)・(各軸の)回転へ制限し、1モーションにつき1部位の機械的動作を基本原則とする動きが”ロボットダンス”として認知されていた時代でしたが、これに対して、ロボットダンスの特徴である制限された各部位の可動範囲を解放し、カートゥーン・アニメーションの特徴であるパラパラ漫画を細かく滑らかに映し出した動きを組み合わせた”流れるように動くロボット”を追求していたのがブガルー・シュリンプでした。

この”流れるように動くロボット”の表現を「リキッドアニメーションスタイル」と呼びます。

そしてこのリキッドアニメーションスタイルの表現をダンスの構成の随所に散りばめ、ルーニー・テューンズ、トムとジェリー、ポパイなどに代表されるカートゥーン・アニメーションのコミカルな動き、秒間のコマ数を少なくしたカートゥーン・アニメーションの動きからインスピレーションを得て創られたパラパラ漫画のような表現のティッキング、そしてヘビやコブラなどの動物の動きを組み合わせて、ブガルー・シュリンプ独自の世界観を創り出していました。

一方、ポッピン・タコは、元々スネーク(コブラ)やウェービンスタイルを学んでいましたが、ポッピングオリジネーターのブガルー・サムを兄に持つポッピングのレジェンド、ポッピン・ピート直伝によるオリジナルポッピンスタイルを体得した事でポッパーとしても頭角を現し、更に自身の表現の武器の一つであるウェーブへポッピングを組み合わせた独自の表現を創り出すところまで進化していました。

このように、別々の背景からダンスを学び独自の表現を追求していた2人は1983年にライオネル・リッチー(Lionel Richie)のバックアップダンサーの仕事を通じて出会います。

そして、ブガルー・シュリンプはポッピン・タコの鋭さの中に重さのあるハードなポッピンスタイルへウェーブやスネークを組み合わせたスタイルの要素を、ポッピン・タコはブガルー・シュリンプの”流れるように動くロボット”のリキッドアニメーションの要素を双方で補完し、映画「ブレイクダンス」で披露したようなストリートダンスの中に”アニメーション”を取り入れた全く新しいダンス表現を自分のものとしてつかみ取るのでした。

2人のレジェンドが双方の要素を補完した事例

2人の要素の補完の一端が垣間見える事例として、映画「ブレイクダンス」におけるブガルー・シュリンプのほうきを使ったソロパフォーマンスシーンと、ポッピン・タコのヴェニスビーチでの初登場シーンが挙げられます。

ブガルー・シュリンプは、冒頭のほうきを左右に振りながら掃除をするしぐさをモチーフとしたリキッドアニメーションスタイルの後にバックスライドからサイドウォークへ展開後、クラフトワーク(Kraftwerk)のツール・ド・フランスの怒濤のごとく流れるリズムの部分で身体を揺さぶるような激しいボディーウェーブを行います。

このボディーウェーブの部分がポッピン・タコの要素を補完した、ウェーブへポッピングを組み合わせたスタイルの「ポッピンウェーブ」です(※アニメーションではありません)。

そしてポッピン・タコはヴェニスビーチでの初登場シーンで、オゾン役のシャバ・ドゥに対しハンドからボディーにかけてのポッピンウェーブ、コブラ、ポッピンタッチウェーブで挑発しますが、この最後の部分で投球ポーズをモチーフとした小刻みな分割モーションを行います。

この小刻みに分割した投球モーションの部分が、ブガルー・シュリンプの要素を補完した「アニメーション」です。

しかしよく見ると、ポッピン・タコの「アニメーション」は確かにアニメーションの要素を取り入れてはいるものの、ブガルー・シュリンプの”流れるように動くロボット”のリキッドアニメーションとは異質なスタイルである事が分かります。

それは、ポッピン・タコはブガルー・シュリンプからリキッドアニメーションの要素を補完しながらも、一方で、もう一つのアニメーションである「ストップモーション・アニメーション」の動きも独自に研究し、自身の表現として取り入れたからです。

ストップモーション・アニメーションスタイルの誕生

ストップモーション・アニメーションとは、内部に骨格を持つ可動式ミニチュア人形の動く様を1コマずつ変化させて撮影する事によって、再生するとその人形がまるで生きているかのような動きを表現する事が出来る、特撮技術を駆使した実写アニメーションの事です。

人間の手で1コマずつ人形を変形させて撮影するという手法のため必然と”ぶれ”が生じるのですが、そのぶれが再生した時の人形の動きの良い持ち味となり、コマ送り再生を早くしたような、滑らかさの中に細かくカクカクした独特の動きがある視覚効果を生み出しています。

ポッピン・タコが着目していたのはこのストップモーション・アニメーションの動きで、とりわけレイ・ハリーハウゼンの創り出すクリーチャー達の動きでした。

中でも1958年公開の映画「シンバッド7回目の航海」(The 7th Voyage of Sinbad)に登場するサイクロプス(一つ目巨人)が有名ですが、特筆すべきは、ポッピン・タコはこのストップモーション・アニメーションを”古くさいB級特撮映画”として扱わず、”革新的ダンス表現のインスピレーション”として捉えていた事です。

こうしてポッピン・タコの高レベルな実力に裏打ちされたハイクオリティーな表現力によって、レイ・ハリーハウゼンの創り出したクリーチャーの要素とストップモーション・アニメーションの動きの要素を融合した「ストップモーション・アニメーションスタイル」が誕生します。

アニメーションダンスの表現手法の継承

時は流れ、アニメーションダンスがストリートダンスの1ジャンルとして一般へ浸透した現在、ブガルー・シュリンプのリキッドアニメーションスタイルを始めとする、オールドスクールアニメーションダンスの先人達が培って来た表現手法は、今日のアニメーションダンスへと受け継がれ、Dubstepに代表される独特の強弱の激しい曲調と静かでエモーショナルな曲調のコントラストに合うようにダンスの構成を再構築して表現されています。

そして、ポッピン・タコの創り出したストップモーション・アニメーションスタイルの表現手法は、オールドスクールアニメーションスタイルのダンサーによって受け継がれています。

次にやるべき事

アニメーションダンスの歴史について理解した次にやるべき事は、アニメーションダンスとアニメーションスタイルの表現の違いについて理解する事です。

一般的にはアニメーションダンスもアニメーションスタイルもひとまとめにして”アニメーションダンス”と呼ばれていますが、実際はそれぞれの創られた背景が異なるため、自ずと表現する内容にも違いがあります。

その表現の違いとは何なのでしょうか。

【第2回】アニメーションダンスとアニメーションスタイルの違い

アニメーションダンスの基礎|アニメーションダンスとスタイルの違い
アニメーションダンスとアニメーションスタイルは各々の創られた背景が異なるため表現にも違いがあります。
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それでは、またの機会にお会いしましょう。

KAIZOU NINGEN

ダンス研究家。専門はムーンウォークとアニメーションダンス。幼少期にマイケル・ジャクソンのメカニカルな動きを取り入れたダンスに影響を受け、1990年よりダンスの研究を始める。マイケル・ジャクソン没後10年特集番組へ情報提供(TBS「一番だけが知っている」:2019年)。

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