アニメーションダンスの構成|実例で見る3つの「しかけ」

アニメーションダンスの「全体像」の基礎から練習方法までを全12回にわたり解説していくシリーズの第12回目(最終回)です。
アニメーションダンス講座|読めばわかる基礎と練習方法
アニメーションダンスの「全体像」の基礎から練習方法までを全12回シリーズで解説します。
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アニメーションダンスの構成|実例で見る3つの「しかけ」

前回(第11回)解説の「アニメーションダンスの練習|おさえておきたい「上達」するための練習」とは」によって、アニメーションダンスを「上達するための練習」について理解することができたと思います。

この「練習」について理解できた人は、次の段階として、この「練習」をどうやって「自分の表現」へと反映し活かしていけばよいのか、ということを考えていることでしょう。

結論から先に言うと、それは「ダンスの構成」です。

そこでシリーズ最終回となる今回は「アニメーションダンスの構成」にスポットを当て、3つの実例を交えながら詳しく解説していきたいと思います。

「アニメーションダンスの構成」とは

前回の解説でも触れましたが、ダンスのしくみ、やり方、技術に関する「すぐに役立つテクニック」の情報があふれているいまの時代、ダンスは「コピペ感覚」(※1)で簡単にできてしまいます。

アニメーションダンスも同様に、曲の構成に合わせて各種スタイルを「振り」としてコピペし当てはめていくだけで簡単にできるようになりました。

しかしながら、この「すぐに役立つテクニック」を多くの人が追い求めた結果、いわゆる「上手い」と言われる人は増えましたが、それと共に、アニメーションダンスが「ハウツー」として片づけられ、本質的な「あること」を忘れてしまった人も増えました。

その本質的な「あること」とは、アニメーションダンスが「表現」である、ということです。

「表現」は、それを表現する表現者の「知的クリエイティビティ(創造性)」のもとに成立しています。

「身体表現」であるダンスの場合、その「知的クリエイティビティ」を発揮する中核をなしているのが「ダンスの構成」です。

「ダンスの構成」とは、漫画でいう「ネーム」、アニメでいう「絵コンテ」と同じように、ダンスを表現するための「設計図」のようなものです。

この「ダンスの構成」の良し悪しによって、ダンスの「表現」のクオリティーが決まると言ってもよいでしょう。

多くの人は、表現者が自由に解釈し、内側からわき上がってくる情熱を、感性のおもむくままに自由に表現したものがアニメーションダンスの「表現」であると考えていますが、その一見「自分の感性のおもむくままに自由に表現している」ように見える「すぐれたアニメーションダンスの表現」がなぜ「すぐれている」のかというと、その身体表現のクオリティーに裏打ちされた「ダンスの構成」がすぐれているからだということがわかります。

つまり、表現者本人が意図していなくても「すぐれたダンスの構成」を構成することができ、なおかつ自分の感性のおもむくままに自由に表現することができるその人は本当の「天才的表現者」である、ということです。

このことは裏を返すと、「天才的表現者」ではない私たちは「知的クリエイティビティ」を「意図的に」入れてダンスを構成していく必要がある、ということを意味しています。

※1:ここでは「即席的」意味合い。「コピペ」とはコンピューター上でデータを複製して貼りつける「コピー&ペースト」の略語のこと。

「教科書的な構成」からの脱却

「ダンスの構成」は、曲の構成に合わせて各種スタイルを「振り」としてコピペし当てはめていくだけで簡単にできます。

これだけでもダンスの構成としては成立していますので、あとはダンスの構成内の「振り」の精度を上げるなど体裁を整えることによって、一定のクオリティーが担保された「人に見せられるレベル」のダンスとなることでしょう。

しかしながら本解説ではこのダンスの構成のことを「教科書的なダンスの構成」と呼んでいます。

つまり、誰がやっても同じような中身の薄い構成、ということです。

それではこの「教科書的なダンスの構成」から脱却するためにはどうしたらよいのでしょうか。

それが冒頭で解説した、「知的クリエイティビティ」を「意図的に」入れてダンスを構成していくことであり、それはつまり、表現者それぞれが面白みのあるダンスの内容となるような「しかけ」を研究し、ダンスの構成へ効果的に取り入れていくこと、です。

3つの「しかけ」とは

これを踏まえ、ここからは参考事例として、実際に私がダンスの構成へ取り入れて表現している「しかけ」について解説していきます。

そのおもな「しかけ」は次の3つです。

1. 歴史

ダンスの表現の背後にある「表現のルーツ」のこと。

2. 視線誘導

「ダンスの動き」によってオーディエンスの視線を誘導していくこと。

3. 圧力

ダンスを表現する際の「強弱の展開」のこと。

1. 歴史

1つ目は、「歴史」です。

「歴史」とは、ダンスの表現の背後にある「表現のルーツ」のことです。

ダンスに限らずどの分野の表現も、表現が「表現」として成立するためには条件があります。

それは、表現の中に「その道の歴史の、先行する既存の表現からの引用」を連想させるいくつもの「表現の要素」、すなわち「表現のルーツ」がちりばめられていることです。

わかりやすい事例として、ここではマイケル・ジャクソンを取り上げます。

マイケル・ジャクソンは、ダンスの構成の中でポッピングやアニメーションなどに属さない「マイケル・ジャクソンスタイル」をメインスタイルとした上で、マイケルの「表現者の個性」として、「アニメーション」とそれに関連する各種スタイルを取り入れて表現しています。

そしてマイケル・ジャクソンの「アニメーション」の表現には、自身が影響を受けたポッピン・タコ(Pop N Taco)(※2)とブガルー・シュリンプ(Boogaloo Shrimp)(※3)の「表現の要素」がちりばめられており、その表現を「鑑賞する」側の私たちはそれを「表現のルーツ」として読み取ることができます。

同様にポッピン・タコもブガルー・シュリンプも、それぞれの表現には各自影響を受けた「表現の要素」がちりばめられており、その表現を「鑑賞する」側の私たちはそれを「表現のルーツ」として読み取ることができます。

※2:マイケル・ジャクソンが自身の「アニメーションダンス」の表現を確立していく過程においてブガルー・シュリンプと共に影響を受けたレジェンド。「ストップモーションアニメーションスタイル」、「アニマトロニクススタイル」のオリジネーター。1983年から1997年までマイケルのパーソナルダンストレーナー(クリエイティブコンサルタント)として、ポッピングとアニメーションスタイルのすべてをマイケルに伝授した。また、マイケルの作品にはディズニーアトラクション体感型3D映画「キャプテンEO」(1986年)、映画「ムーンウォーカー」のSmooth Criminal(1988年)、ショートフィルム「ゴースト」(1996年)などに出演した。

※3:マイケル・ジャクソンが自身の「ムーンウォーク」と「アニメーションダンス」を確立していく過程において影響を受けたレジェンド。「リキッドアニメーションスタイル」のオリジネーター。1983年から1991年までマイケルのソロパートのアドバイザー(パーソナルポッピングインストラクター)として、1984年のジャクソンズヴィクトリーツアー以降のBillie Jean終盤の間奏部分のダンスパートをはじめ、ムーンウォーク(バックスライド)を含む一連のパフォーマンスを完成度の高いレベルまで引き上げる仕事にたずさわった。

2. 視線誘導

2つ目は、「視線誘導」です。

「視線誘導」とは、表現者の「ダンスの動き」によってオーディエンスの視線を意図的に誘導していくことです。

たとえばアニメーションダンスのスタイルの一つである「ウェーブ」で、表現者が右手の指先から左手の指先へハンドウェーブで流し、次に左手の指先から頭を経由してボディーウェーブで足のつま先まで流す、という「ダンスの動き」をイメージしてみましょう。

この時、オーディエンスは表現者が意図したとおりに視線が誘導されてウェーブの「波の山」が流れていく動きを目で追って見ています。

この「ダンスの動き」によってオーディエンスの「目の動き」を意図的に誘導していくことが、ここでいう「視線誘導」です。

3. 圧力

3つ目は、「圧力」です。

「圧力」とは、ダンスを表現する際の「強弱の展開」のことです。

これは漫画を読む時の「ページめくりのしかけ」と似ています。

漫画は右から左へ読み進める「右開き」タイプとなっていますが、この「右開き」タイプの仕様で多くの漫画家が「一番強調して描き込んでいるコマ」の場所があります。

それはページをめくった時に一番はじめに読者の目に入る、右ページ上部の「第一コマ」です。

この「第一コマ」で漫画家は読者へ「ショック」(見せ場)を与えています。

ストーリーの展開によっては見開きページを「第一コマ」としてすべて使い、読者へ「最大限のショック」を与えることもあります。

この「第一コマ」にいたるまでの前のページで読者は「次の展開への期待」という最高潮の「圧力」が高まっていますので、ページをめくった時に一番はじめに目に入る「第一コマ」によって「ショック」を受けた瞬間、この最高潮に高まっていた「圧力」は解放されます。

そして左ページ下部の最終コマへ向かって読み進めていくにつれて読者は再び「次の展開への期待」を高めていき、最高潮の「圧力」がかかったところでページをめくることによって「第一コマ」で再びショックを受け、それと同時に「圧力」が解放される、ということを繰り返します。

この次の展開への期待感を高める「圧力」→見せ場の「ショック」→圧力からの「解放」の一連の展開をダンスの構成へ「強弱の展開」として取り入れた表現が、ここでいう「圧力」です。

3つの「しかけ」の実例

以上を踏まえ、ここからは実際に私がダンスの構成へ取り入れて表現している3つの「しかけ」について解説していきます。

まずはこの動画をご覧ください。

3つの「しかけ」の役割

まずはじめに、私がダンスの構成へ取り入れて表現している「歴史」・「視線誘導」・「圧力」の3つの「しかけ」の役割について解説します。

私の場合、曲のタイムラインに沿ってダンスを構成するのと同時進行で「歴史」を入れ、「視線誘導」によって「表現のルーツ」が見えてくるようにオーディエンスの目の動きを意図的に誘導し、「ショック→解放→圧力」の展開によってダンスの構成へ強弱をつけて演出しています。

歴史

ダンスの構成に「歴史」を入れることの目的は、自分が表現するダンスの表現の背後にある「表現のルーツ」をオーディエンスへ開示することです。

ダンスの構成の中に「表現のルーツ」をちりばめながらダンスを展開していくことによって、オーディエンスはその表現の背後にある「表現のルーツ」、すなわち、この表現がどういうところからインスピレーションを受けているのかを読み取りながら鑑賞することができます。

これを踏まえ、この動画ではおもに「ポッピン・タコ」と「ブガルー・シュリンプ」の2人を「歴史」として入れています。

たとえば前半では、ティッキング(Ticking)(※4)を織り交ぜて前進する動きの「ポッピン・タコ」、ダンスの動きを途中で一旦止めてから続きをおこなう「ブガルー・シュリンプ」(※5)というようにです。

また、海外だけでなく日本を代表する「SeeN」のハンドウェーブのオマージュも入れています。

そして後半では、ブガルー・シュリンプとポッピン・タコの「代表的な技」も「歴史」として入れています。

それが、低い姿勢からの「S字上昇型スネーク」(ブガルー・シュリンプ)、終盤の「360度全方向回転型コブラ」(ポッピン・タコ)です。

※4:等間隔に順を追ってパラパラ漫画のように表現するスタイル。詳しい解説は、「アニメーションダンスの基礎|代表的スタイルの種類とやり方のポイント」を参照。

※5:ブガルー・シュリンプ特有の表現の一つ。他に、Aという「現在進行中の表現」を途中で止めて、Bという「別の表現」へ切り替える「キャンセル技」がある。

視線誘導

ダンスの構成に「視線誘導」を入れることの目的は、「視線誘導」によって「表現のルーツ」が「キーワード」として見えてくるようにオーディエンスの目の動きを意図的に誘導することです。

この動画の前半に仕込まれているおもな「キーワード」は、ティッキングを織り交ぜて前進する動きの「ポッピン・タコ」、ダンスの動きを途中で一旦止めてから続きをおこなう「ブガルー・シュリンプ」、ハンドウェーブの「SeeN」です。

また、この動画の後半に仕込まれているおもな「キーワード」は、ブガルー・シュリンプとポッピン・タコの「代表的な技」です。

それは、低い姿勢からの「S字上昇型スネーク」(ブガルー・シュリンプ)、「360度全方向回転型コブラ」(ポッピン・タコ)として入れています。

圧力

ダンスの構成に「圧力」を入れることの目的は、次の展開への期待感を高める「圧力」→見せ場の「ショック」→圧力からの「解放」の一連の展開によって、ダンスの構成へ強弱をつけて演出することです。

この動画でも前半・後半共に細かく「圧力」を仕込んでいますが、構成全体でいうと、後半の「S字上昇型スネーク」(ブガルー・シュリンプ)に入る直前の「低い姿勢で動きを止める」ところに「最大の圧力」をかけ、そこから「S字上昇型スネーク」、そして「ストップモーションアニメーションスタイル(※6)の細かい動き」へと展開していくところに「ショック」(見せ場)を設定しています。

※6:ストップモーションアニメーションの「滑らかさの中に細かくカクカクした独特な動き」を表現するスタイル。詳しい解説は、「アニメーションダンスの基礎|代表的スタイルの種類とやり方のポイント」を参照。

もっとも大切なこと

以上が「アニメーションダンスの構成」についての解説でした。

ダンスを構成する上で「もっとも大切なこと」は、「身体表現」と「ダンスの構成」が違和感なく「一体化」していること、です。

はじめのうちは「振り」としてあらかじめ決めておいたダンスの構成でしか踊れないかもしれませんが、慣れてくると「即興」でも瞬間的に頭の中でダンスを構成し、身体が自然に音に反応して踊れるようになりますので、あきらめずに取り組んでいきましょう。

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