アニメーションダンスの基礎|代表的スタイルの種類とやり方のポイント

アニメーションダンスの「全体像」の基礎から練習方法までを全12回にわたり解説していくシリーズの第7回目です。
アニメーションダンス講座|読めばわかる基礎と練習方法
アニメーションダンスの「全体像」の基礎から練習方法までを全12回シリーズで解説します。
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アニメーションダンスの基礎|代表的スタイルの種類とやり方のポイント

「アニメーション」(Animation)は、ロボットやアニメーションの特撮技術からインスピレーションを受けて創られた、「映像特殊効果」を身体で表現するスタイルです。

このスタイルは1984年公開の映画「ブレイクダンス」(Breakin’)によって世界中のストリートダンサーへと広まり、その後マイケル・ジャクソンが1980年代から90年代にかけて開催したバッドツアー(1987年)、デンジャラスツアー(1992年)、ヒストリーツアー(1996年)の3つのワールドツアーで披露したことによって一般の人々の目にも触れるようになりました。

「アニメーション」は、それ自体が「独立した意味を持つ」スタイル、として存在しているため、スタイルそのものが「表現」として成立しています。

その一方で、このスタイルの「表現の特徴」から、わざと変わったことをすることによって人目を引くような「奇をてらった動き」がアニメーションの表現、と勘違いされやすいスタイルでもあります。

わかりやすい例として、たとえばウェーブ(Waving)は、身体の各部位を自在にコントロールすることによって全身に波がうねるように表現する「スタイル」であり、「アニメーション」ではありません。

なぜなら「スタイル」はそれ自体が「独立した意味を持っている」ため、ウェーブは「ウェーブ」という「独立した1つのスタイル」として存在しているからです。

同様に、ティッキング(Ticking)は、等間隔に順を追ってパラパラ漫画のように表現する「スタイル」であり、「アニメーション」ではないのです。

つまりクリエイティブの観点からすると、「表現」であるアニメーションには当然ながら表現の骨格となる「表現コンセプト」があり、それを表現するための「ルール」がある、ということです。

これを踏まえ、「アニメーション」の表現に特化し、ダンスの構成の中で「アニメーション」をメインスタイルとして表現しているダンスが「アニメーションダンス」です。

そこでシリーズ第7回目の今回は「アニメーションダンスの基礎」にスポットを当て、次の「3つのトピック」について詳しく解説していきたいと思います。

1. 代表的スタイル

2. 「アニメーションダンス」の条件

3. 「アニメーション」のおもなスタイル

アニメーションダンスの基礎

ジャンルの「アニメーション」を表現するための「代表的スタイル」にはどのようなスタイルがあるのでしょうか。

1. 代表的スタイル

本題に入る前に、まずはじめに「ジャンルとスタイル」についておさえておきましょう。

ジャンルとは

ストリートダンスにおける「ジャンル」とは、「ダンスのカテゴリー」のことです。

そのおもなジャンルには、ロボット(Robot)、ロッキング(Locking)、ポッピング(Popping)、ブレイキング(Breaking)、ニュージャックスウィング(New jack swing)、ヒップホップ(Hip Hop)、ハウス(House)、アニメーション(Animation)などがあります。

スタイルとは

そしてそれぞれの「ジャンル」の配下には、そのジャンルを表現するための様々な「ダンスの表現」があります。

この「ダンスの表現」が「スタイル」です。

今回取り上げる「アニメーション」には、ジャンルの「アニメーション」の配下に「ポッピング」や「ウェーブ」、「ロボット」など、ジャンルの「アニメーション」を表現するための様々な「スタイル」があり、表現者はメインスタイルの「アニメーション」をベースに、表現者の個性として、他のスタイルも取り入れて表現することによって「自分の表現」を形成します。

その「代表的スタイル」は次のとおりです。

01. アニメーション (Animation)

02. ポッピング (Popping)

03. ウェーブ (Waving)

04. ロボット (Robot)

05. ティッキング (Ticking)

06. ストロボ (Strobing)

07. スローモーション (Slow motion)

08. スネーキング (Snaking)

09. ムーンウォーク (Moonwalk)

10. バイブレーション (Vibration)

11. キングタット (King Tut)

01. アニメーション

アニメーション(Animation)(※1)は、ロボットやアニメーションの特撮技術からインスピレーションを受けて創られた、「映像特殊効果」を身体で表現するスタイルです。

このスタイルはロボットやアニメーションの特撮技術からインスピレーションを受けて創り出されました。

スタイルのベースにポッピングの「身体を弾く」という「表現の要素」を取り入れ、時に「流れるように動くロボット」、時に「ひっかかりのあるぶれをともなうメカニカルな動き」、そして時に「滑らかさの中に細かくカクカクした独特な動き」などの「映像特殊効果」を身体で表現します(※2)。

※1:ブガルー・シュリンプ(Boogaloo Shrimp)とポッピン・タコ(Pop N Taco)が1983年に創り出したスタイル。

※2:このスタイルの「やり方のポイント」は、後述の「3. 「アニメーション」のおもなスタイル」を参照。

02. ポッピング

ポッピング(Popping)(※3)は、曲のビートに反応してポーズを形成した直後に、瞬間的に筋肉へ力を入れることによって身体の各部位を同時に弾いて表現するスタイルです。

このスタイルは1960年代初期に流行したダンスの「ジャーク」(Jerk)の動きや教会で人々がゴスペルに合わせて「シェイク」(Shake)する動きからインスピレーションを受けて創り出されました。

このスタイルの「やり方のポイント」は、一瞬力を入れて弾いたら瞬時に力を抜いて表現する、です(※4)。

※3:エレクトリックブガルーズ(Electric Boogaloos)(※5)のブガルー・サム(Boogaloo Sam)(※6)が1976年に創り出したスタイル。

※4:ポッピングの詳しい解説は、第4回目の「ポップダンス(ポッピング)とは|絶対おさえておきたい基本と練習」を参照。

※5:ブガルー・サムによって1977年に結成された伝説的ダンスクルー。曲のビートに反応してポーズを形成した直後に身体の各部位を同時に弾いて表現する「ポッピング」(Popping)と、腰・ひざ・頭などの身体のあらゆる部分のロールを自在に使いこなすことによって流動的に表現する「ブガルー」(Boogaloo)の2大ダンススタイルを世に送り出した。なお、結成時の1977年は、エレクトリックブガルーロッカーズ(Electric Boogaloo Lockers)の名称でカリフォルニア州フレズノを本拠地としていたが、1978年にカリフォルニア州ロングビーチへ移転後「エレクトリックブガルーズ」へと改名した。

※6:エレクトリックブガルーズのリーダー。曲のビートに反応してポーズを形成した直後に身体の各部位を同時に弾いて表現する「ポッピング」と、腰・ひざ・頭などの身体のあらゆる部分のロールを自在に使いこなすことによって流動的に表現する「ブガルー」を創り出したオリジネーター(考案者)。マイケル・ジャクソンの作品にはショートフィルム「ゴースト」に出演した。

03. ウェーブ

ウェーブ(Waving)(※7)は、身体の各部位を自在にコントロールすることによって全身に波がうねるように表現するスタイルです。

このスタイルは波の動きにインスピレーションを受けて創り出されました。

このスタイルの「やり方のポイント」は、「1. ラインを崩さない」、「2. サイズを変えない」、「3. 波の山を残さない」の3点を踏まえて表現する、です(※8)。

この動画では、上述の3つのポイントを踏まえたウェーブコンビネーションを表現しています。

また、ここで1点留意しておきたいことは、「ウェーブはブガルー(Boogaloo)とはまったく別物のスタイルであること」です。

なぜならブガルーが「腰・ひざ・頭などの身体のあらゆる部分のロールを自在に使いこなすことによって流動的に表現するスタイル」であるのに対し、ウェーブは「身体の各部位を自在にコントロールすることによって全身に波がうねるように表現するスタイル」であるからです。

※7:カリフォルニア州北部のサンフランシスコ・ベイエリア周辺のストリートダンサーが1982年に創り出したスタイル。

※8:ウェーブの詳しい解説は、第5回目の「ダンスの「ウェーブ」とは|やり方の基礎から5種類の応用ウェーブまで」を参照。

04. ロボット

ロボット(Robot)は、各部位の可動範囲をおもに①左右(X軸)、②上下(Y軸)、③前後(Z軸)、④(各軸の)回転の4つに制限し、1モーションにつき1部位の機械的動作を基本原則として表現するスタイルです。

このスタイルのルーツは1910年代後期の「マネキンダンス」にあり、その後長い間パントマイムの世界で発展していましたが、1960年代後期よりストリートダンスへ取り入れられました。

このスタイルの「やり方のポイント」は、動作の始動・停止の際に生じる機械特有の「ぶれ」を省略し、動作を「スッとはじめてピタッと止める」ことによって「スムーズに動くロボット」を表現する、です(※9)。

この動画では、動作の始動・停止の際に生じる機械特有の「ぶれ」を省略した「スムーズに動くロボット」と、ポッピングの「表現の要素」を取り入れることによって、ロボットの動作の始動・停止の際に生じる機械特有の「ぶれ」を表現したロボットの2つのスタイルで構成したロボットコンビネーションを表現しています。

※9:ロボットの詳しい解説は、第6回目の「アニメーションダンスとロボットダンスの決定的な「違い」とは」を参照。

05. ティッキング

ティッキング(Ticking)は、等間隔に順を追ってパラパラ漫画のように表現するスタイルです(※10)。

このスタイルは秒間のコマ数を少なくしたカートゥーンアニメーションの動きからインスピレーションを受けて創り出されました(※11)。

このスタイルの「やり方のポイント」は、細かく等間隔に一つ一つの動きの「ぶれ」をおさえながら表現する、です。

この動画では、前半部分でウェーブへティッキングの「表現の要素」を取り入れた、パラパラ漫画のようなハンドウェーブの「ティッキンウェーブ」を表現しています。

※10:オリジナルのティッキングはエレクトリックブガルーズのティッキン・ウィル(Tickin’ Will)が1975年に創り出したスタイル。このスタイルは時計の秒針がカチカチ動いていく様子からインスピレーションを受けて創り出された。オンカウントとエンカウントを1セットとして小刻みかつランダムにポーズを形成して表現する。

※11:映画のカートゥーンアニメーションが秒間24コマのすべてにセル画を差し込んだフルアニメーションによる「非常に滑らかな動き」に対し、TVのカートゥーンアニメーションが1コマおきに間引いた秒間12コマのアニメーションであるため「パラパラ漫画を細かく滑らかにした動き」のように見える。

06. ストロボ

ストロボ(Strobing)は、フラッシュを連続して点滅した時に照らし出される残像によって「人の動きが間引いて見える軌跡」を表現するスタイルです(※12)。

前述の等間隔に順を追ってパラパラ漫画のように表現する「ティッキング」の表現から「さらに間引いたパラパラ漫画」のように表現します。

このスタイルの「やり方のポイント」は、前述の「ティッキング」が細かく等間隔に一つ一つの動きの「ぶれ」をおさえながら表現する、に対し、「ストロボ」は等間隔に一つ一つの動きの「ぶれ」をおさえて表現する、です。

この動画では、ウェーブへストロボの「表現の要素」を取り入れた「ストロボウェーブ」を表現しています。

※12:もともとは前述の等間隔に順を追ってパラパラ漫画のように表現する「ティッキング」の表現がオリジナルのストロボの表現だった。

07. スローモーション

スローモーション(Slow motion)は、通常の時間の流れの世界から一瞬にしてゆっくりと流れる時間の世界へと変化していく様子を表現するスタイルです。

このスタイルはハイスピードカメラによって高速度撮影された映像をスロー再生した際に映し出される極めて滑らかなスローモーションの動きからインスピレーションを受けて創り出されました。

激しい曲調からのスローダウン、あるいは直前のスピードの速いモーションからスローダウンした時など、コントラストの差が大きいほどインパクトのある視覚効果を得ることができます。

「瞬発的な動き」や「微細な動き」も鮮明に表現するこのスタイルの「やり方のポイント」は、常に一定のスピードを維持したまま滑らかに表現する、です。

特に体重移動をともなうスローモーションの表現では、体重を切り替える際に身体が止まったりぶれたりしないようコントロールします。

08. スネーキング

スネーキング(Snaking)(※13)は、時計回り、あるいは反時計回りに胸を大きくロールするアイソレーションの動きを基本とし、身体全体をロールしながら回転したり、身体のラインをS字状に形作ることによって表現するスタイルです。

スネーキングの表現はおもに次の2つの表現があります。

① コブラ (Cobra)

② スネーク (Snake)

※13:エレクトリックブガルーズのメンバーだったミステリアスポッパーズ(Mysterious Poppers)(※14)のリーダーのダリル・ジョンソン(Darold Johnson:ダンサーネーム「KING COBRA」)が、ブガルー・サムの表現する「胸を大きくロールするアイソレーション」からインスピレーションを受けて1979年に創り出したスタイル。

※14:1970年代後期にポッピン・タコが所属していたダンスクルー。当時のダンサーネームは「KING SNAKE」だった。ポッピン・タコの代表的表現の1つに「コブラ」(Cobra)があるが、これはダリル・ジョンソン(KING COBRA)の影響を受けて表現している。

① コブラ

1つ目の表現は「コブラ」(Cobra)です。

このスタイルの「やり方のポイント」は次の2点です。

001. 「三角形」を形作る

両ひじを胸の高さへ上げ、ひじを肩と手首を結ぶ線よりも外側に突き出し、肩・ひじ・手首を結ぶ「三角形」を形作る。

002. 「かま首をもたげるポーズ」を形作る

胸を大きくロールするアイソレーションで「猫背の姿勢」になった時に、コブラが威嚇(いかく)の際に頸部(けいぶ)を広げて「かま首をもたげるポーズ」を形作る。

また、コブラの表現はおもに「360度全方向回転型」と「90度分割回転型」の2つのタイプがあります。

「360度全方向回転型」は上述のコブラの表現のことで、「90度分割回転型」(※15)は90度に1回胸のロールのアイソレーションを完結しながら回転するコブラの表現のことです。

この動画では「360度全方向回転型コブラ」を表現しています。

※15:1984年公開の映画「ブレイクダンス」でブガルー・シュリンプが披露したコブラ(※参照:YouTube)。

② スネーク

2つ目の表現は「スネーク」(Snake)です。

このスタイルの「やり方のポイント」は、身体のラインをS字状に形作る、です。

S字状の身体のラインを形作りながら前方に進んだり、低い姿勢から上昇していくことによって表現します。

この動画では、S字状の身体のラインを形作りながら低い姿勢から上昇していく「S字上昇型スネーク」を表現しています。

09. ムーンウォーク

ムーンウォーク(Moonwalk)は、別名フローティング(Floating)やグライディング(Gliding)とも呼ばれている、床の上を滑るように前後左右へ自在に移動・回転していく様子を表現するスタイルです。

もともとは円を描くように体重移動することによって表現する回転ムーンウォークが本来の「ムーンウォーク」(The Moonwalk)(※16)の名称でしたが、かかとからつま先にかけて後方へ交互にスライドしながら移動していく「バックスライド」をマイケル・ジャクソンが「ムーンウォーク」と命名し1983年のモータウン25(※17)で披露したことによって、一般にはバックスライドの表現が「ムーンウォーク」として広く知られるようになりました。

マイケル・ジャクソンが披露したことによって一般に広く知られるようになった「ムーンウォーク」は、表現別に分類すると次の4種類があります(※18)。

① バックスライド

かかとからつま先にかけて後方へ交互にスライドしながら移動していくスタイル。

② サイドウォーク

左右の足の「つま先とかかとの体重移動」および「交差」を利用して横方向へ移動していくスタイル。

③ その場ムーンウォーク

その場にとどまりながらムーンウォーク(バックスライド)しているようにみせるスタイル。

④ 回転ムーンウォーク

円を描くように足をスライドする、または体重移動することによって表現するスタイル。

この動画では、パラパラ漫画のように歩いていくティッキングの動作からバックスライドへと展開していくバックスライドコンビネーションを表現しています。

※16:オリジナルムーンウォーク(Original Moonwalk)のこと。エレクトリックブガルーズのメンバーのティッキン・ウィルが1975年に考案し、リーダーのブガルー・サムによって発展していったスタイル。ひざをやわらかく使いながら円を描くように体重移動していく表現を利用して、月の上を歩いているかのようにゆっくりと歩いてみせる表現に特徴がある。なお、マイケル・ジャクソンが採用した回転ムーンウォークは、円を描くように体重移動することによって表現する「オリジナルムーンウォーク系」と、円を描くように足をスライドすることによって表現する「サークルフロート系」の2つの系統がある。

※17:マイケル・ジャクソンがジャクソン5時代に所属していたレコードレーベル「モータウン」の設立25周年を記念して開催された音楽の祭典。そのハイライトは1983年5月16日に全米でTV放送された。祭典の正式名称は「Motown25: Yesterday, Today, Forever」(モータウン25:昨日、今日、そして永遠に)。この祭典がマイケルにとってムーンウォーク(バックスライド)初披露の場となった。

※18:各種ムーンウォークの詳しい解説は、「ムーンウォークの種類|マイケル・ジャクソンが採用した主要4種とは」を参照。

10. バイブレーション

バイブレーション(Vibration)(※19)は、全身が小刻みに震えている様子を表現するスタイルです。

バリエーションとして、腹筋や首、腕の部位を単独で震わせて表現することもあります。

このスタイルの「やり方のポイント」は、ひざとももの後ろの筋肉(大腿二頭筋)をコントロールして小刻みに屈伸しながら表現する、です。

バイブレーションの表現はおもに次の2つの表現があります。

① 小刻みなバイブレーション

一つ一つの動きの振り幅を「細かく」かつ「素早く」反復する表現。

② 重みのあるバイブレーション

一つ一つの動きの振り幅を「大きく」取りながら反復する表現。

この動画では、ボディーからハンドにかけて小刻みに震わせるバイブレーションを採用しています。

また後半部分では、ウェーブへバイブレーションの「表現の要素」を取り入れた、腕から手の指先にかけて小刻みに震わせるハンドウェーブの「バイブレーションウェーブ」を表現しています。

※19:エレクトリックブガルーズのブガルー・サムとロボット・ダン(Robot Dane)(※20)が当時全米で最先端のストリートダンスを発信していた音楽番組「ソウルトレイン」へ1979年に出演した際に披露したことによってウエストコースト(西海岸)から全米へ広がったスタイル。

※20:1979年にエレクトリックブガルーズが当時全米で最先端のストリートダンスを発信していた音楽番組「ソウルトレイン」へ出演した時の5人のレジェンドメンバーの一人。マイケル・ジャクソンの作品にはショートフィルム「Beat It」(1983年)、「ゴースト」(1996年)などに出演。特にショートフィルム「Beat It」終盤における首のバイブレーションのクローズアップシーンが有名(※参照:YouTube)。

11. キングタット

キングタット(King Tut)(※21)は、エジプトの古代遺跡の壁画に描かれている2次元の絵の人物のポーズのように、手のひらを床と水平にして手首とひじの関節を直角に保ちながらポーズを形成したり、手を組み合わせてボックスを形成することによって表現するスタイルです。

このスタイルはカートゥーンアニメーションのルーニー・テューンズに登場するうさぎのキャラクターのバッグス・バニー(Bugs Bunny)の動きにインスピレーションを受けて創り出されました。

現在は手を組み合わせて水平・垂直・奥行の関係性を保ちながらその「軌跡」を形成していくことによって「より立体的」な表現へと発展しています。

このスタイルの「やり方のポイント」は、ポーズを形成する際に水平・垂直・奥行の関係性を意識して表現する、です。

※21:カリフォルニア州北部のオークランドのストリートダンサーが1980年後期に創り出したスタイル。別名「タッティング」(Tutting)、あるいは「エジプシャン」(Egyptian)とも呼ばれている。

2. 「アニメーションダンス」の条件

以上がダンスのジャンルの「アニメーション」の配下にある「代表的スタイル」です。

これを踏まえ、ここからは、何をどのように表現すれば「アニメーションダンス」となり得るのか、について解説します。

なり得る条件

「アニメーションダンス」となり得る「大前提」の条件とは、当然ながら、ダンスの構成の中でダンスのジャンルの「アニメーション」を採用していること、です。

ダンスのジャンルの「アニメーション」を採用していること、とは、ダンスの構成の中で「アニメーション」をメインスタイルとして表現していることです。

その上で表現者の個性として、ジャンルの「アニメーション」の配下にある他のスタイルも取り入れて表現することによって「自分の表現」を形成します。

なり得ない条件

これとは反対に、「アニメーションダンス」となり得ない条件とは、ダンスの構成の中で「アニメーション以外のスタイル」をメインスタイルとして表現していること、です。

このことは、たとえメインスタイルがジャンルの「アニメーション」に属しているポッピングやウェーブ、ロボットであったとしても、「アニメーション」をメインスタイルとしていない限り、それは「アニメーションダンス」とはなり得ない、ということを意味しています。

アニメーションダンスとは

つまりここで「重要なこと」は、「アニメーション」の表現に特化し、ダンスの構成の中で「アニメーション」をメインスタイルとして表現しているダンスが「アニメーションダンス」である、ということです。

たとえば「ウェーブ」の表現に特化し、ダンスの構成の中で「ウェーブ」をメインスタイルとして表現しているダンスは「ウェーブダンス」でありアニメーションダンスではありません。

同様に「ティッキング」の表現に特化し、ダンスの構成の中で「ティッキング」をメインスタイルとして表現しているダンスは「ティッキンダンス」でありアニメーションダンスではないのです。

アニメーションと同等のスタイルとは

その一方で、「スタイル」の中には「アニメーションダンスとなり得るスタイル」があります。

「アニメーションダンス」となり得るスタイルとは、「アニメーションと同等のスタイル」のことです。

たとえば「ウェーブ」の場合、ウェーブへアニメーションを「スタイリング」した「アニメーションウェーブ」がそれに該当します。

「スタイル」はそれ自体が「独立した意味を持っている」ため、それゆえに「独立した1つのスタイル」として存在しています。

そのため、「スタイル」はそれを創り出したオリジネーター以外の人が改変することはできません。

オリジネーター以外の人が「スタイル」を改変した場合、改変してできたその表現は「別物のスタイル」となります。

つまり、AというスタイルへBという別のスタイルの「表現の要素」を取り入れて表現する手法のことを「スタイリング」と呼び、スタイリングしてできたものは「別物のスタイル」となる、ということです。

たとえば「アニメーション」がその典型で、「アニメーション」はポッピングの「身体を弾く」という「表現の要素」を取り入れてできたものですが、スタイリングしてできたものは「別物のスタイル」となる、というルールにもとづき、ポッピングではなく「アニメーション」という別物の、それ自体が「独立した意味を持つ」スタイル、として存在しています。

これを踏まえ、アニメーションの「表現の要素」を取り入れてできたスタイルは「アニメーションと同等のスタイル」であり、「アニメーションウェーブ」は、ウェーブではない、ウェーブへアニメーションの「表現の要素」を取り入れてできた、それ自体が「独立した意味を持つ」スタイル、すなわち「アニメーションダンスとなり得るスタイル」です。

3. 「アニメーション」のおもなスタイル

それではアニメーションダンスの「核」となる、「アニメーション」のおもなスタイルにはどのようなものがあるのでしょうか。

そのおもな表現が次の「3つのスタイル」です。

01. リキッドアニメーションスタイル

02. アニマトロニクススタイル

03. ストップモーションアニメーションスタイル

なお、ダンスのジャンルの「ポッピング」の配下にある「アニメーションスタイル」も、ダンスの構成の中で「アニメーション」を表現する時はこれら3つのスタイルをおもに採用しています。

つまり、ダンスのジャンルの「アニメーション」で採用しているスタイルの「アニメーション」も、ダンスのジャンルの「ポッピング」で採用している「アニメーションスタイル」も、表現する内容に違いはなく同じ、です。

01. リキッドアニメーションスタイル

1つ目のスタイルは「リキッドアニメーションスタイル」(※22)です。

このスタイルはダンスのジャンルの「アニメーション」で採用しているスタイルの「アニメーション」における主流スタイルと言ってもよいでしょう。

このスタイルは「流れるように動くロボット」を表現するところに特徴があります。

「流れるように動くロボット」は、「可動範囲の制限を解放したロボットの動き」の要素と、カートゥーンアニメーションの「パラパラ漫画を細かく滑らかに映し出した動き」の要素を組み合わせることによって表現します。

このスタイルの「やり方のポイント」は、ティッキングの「身体をパラパラ漫画のように動かす」という「表現の要素」を動きの中へ小刻みかつランダムに溶け込むように表現する、です。

この動画では、おもに「リキッドアニメーションスタイル」を表現しています。

※22:ブガルー・シュリンプ(※23)が1983年に創り出したスタイル。

※23:マイケル・ジャクソンが自身の「ムーンウォーク」と「アニメーションダンス」を確立していく過程において影響を受けたレジェンド。「リキッドアニメーションスタイル」のオリジネーター。1983年から1991年までマイケルのソロパートのアドバイザー(パーソナルポッピングインストラクター)として、1984年のジャクソンズヴィクトリーツアー以降のBillie Jean終盤の間奏部分のダンスパートをはじめ、ムーンウォーク(バックスライド)を含む一連のパフォーマンスを完成度の高いレベルまで引き上げる仕事にたずさわった。

02. アニマトロニクススタイル

2つ目のスタイルは「アニマトロニクススタイル」(※24)です。

このスタイルはアニマトロニクスの「ひっかかりのあるぶれをともなうメカニカルな動き」を表現するところに特徴があります。

アニマトロニクスの「ひっかかりのあるぶれをともなうメカニカルな動き」は、スタン・ウィンストン(Stan Winston)(※25)の「クリーチャー」の要素と、「アニマトロニクスの動き」(※26)の要素を組み合わせることによって表現します。

このスタイルの「やり方のポイント」は、ポッピングの「身体を弾く」という「表現の要素」を動きの中へ小刻みかつランダムに溶け込むように表現する、です。

この動画では、中盤から終盤にかけておもに「アニマトロニクススタイル」を表現しています。

※24:ポッピン・タコ(※27)が1993年に創り出したスタイル。

※25:数々の映像特殊効果を生み出したレジェンド。アニマトロニクスとは、内部にロボットが組み込まれたメカニカルな骨格を持つ等身大の人形が、機械制御によってまるで生きているかのような動きを表現することのできる特撮技術のこと。スタン・ウィンストンが映画で手がけたアニマトロニクスの代表作として「エイリアン2」(1986年)、「ターミネーター2」(1991年)、「ジュラッシックパーク」(1993年)がある。また、マイケル・ジャクソンの作品にはショートフィルム「ゴースト」(1996年)へ監督としてたずさわった。

※26:アニマトロニクスは複合的に構成された機械を制御することによって駆動しているため、スムーズなモーションの間で時折「ひっかかりのあるぶれ」を生じることがある。この「ひっかかりのあるぶれをともなうメカニカルな動き」に着目して表現したスタイルが「アニマトロニクススタイル」。なお、ポッピン・タコの代表的表現の1つに「Tレックス」(T-Rex)があるが、これは1993年公開の映画「ジュラッシックパーク」に登場するTレックスのアニマトロニクスに影響を受けて表現している(※参照:YouTube)。

※27:マイケル・ジャクソンが自身の「アニメーションダンス」の表現を確立していく過程においてブガルー・シュリンプと共に影響を受けたレジェンド。「ストップモーションアニメーションスタイル」、「アニマトロニクススタイル」のオリジネーター。1983年から1997年までマイケルのパーソナルダンストレーナー(クリエイティブコンサルタント)として、ポッピングとアニメーションスタイルのすべてをマイケルに伝授した。また、マイケルの作品にはディズニーアトラクション体感型3D映画「キャプテンEO」(1986年)、映画「ムーンウォーカー」のSmooth Criminal(1988年)、ショートフィルム「ゴースト」(1996年)などに出演した。

03. ストップモーションアニメーションスタイル

3つ目のスタイルは「ストップモーションアニメーションスタイル」(※28)です。

このスタイルはダンスのジャンルの「ポッピング」で採用している「アニメーションスタイル」の主流スタイルと言ってもよいでしょう。

バリエーションとして、このスタイルへ前述のアニマトロニクススタイルの「表現の要素」を取り入れて表現することもあります。

このスタイルはストップモーションアニメーションの「滑らかさの中に細かくカクカクした独特な動き」を表現するところに特徴があります。

ストップモーションアニメーション独特の「細かい動き」は、レイ・ハリーハウゼン(Ray Hurryhausen)(※29)の「クリーチャー」の要素と、「ストップモーションアニメーションの動き」の要素を組み合わせることによって表現します。

このスタイルの「やり方のポイント」は、バイブレーションの「身体を小刻みに震わせる」という「表現の要素」を動きの中へ小刻みかつランダムに溶け込むように表現する、です。

この動画では、おもに「ストップモーションアニメーションスタイル」を表現しています。

※28:ポッピン・タコが1983年に創り出したスタイル。

※29:ストップモーションアニメーションを取り入れた数々の特撮映画を生み出したレジェンド。ストップモーションアニメーションとは、内部に骨格を持つ可動式ミニチュア人形の動くさまを1コマずつ変化させて撮影することによって、再生するとその人形がまるで生きているかのような動きを表現することができる、特撮技術を駆使した実写アニメーションのこと。ポッピン・タコの代表的表現の1つに一つ目巨人の「サイクロプス」(Cyclops)があるが、これはレイ・ハリーハウゼンが手がけた1958年公開の映画「シンバッド7回目の航海」(The 7th Voyage of Sinbad)に登場するサイクロプスに影響を受けて表現している。

まとめ

以上を踏まえ、「アニメーションダンスの基礎」についてまとめると次のとおりです。

0. アニメーションダンスとは

「アニメーション」の表現に特化し、ダンスの構成の中で「アニメーション」をメインスタイルとして表現しているダンスのこと。

1. 代表的スタイル

01. アニメーション(Animation)、02. ポッピング(Popping)、03. ウェーブ(Waving)、04. ロボット(Robot)、05. ティッキング(Ticking)、06. ストロボ (Strobing)、07. スローモーション(Slow motion)、08. スネーキング(Snaking)、09. フローティング(Floating)、10. バイブレーション(Vibration)、11. キングタット(King Tut)、など。

2. 「アニメーションダンス」の条件

ダンスの構成の中で「アニメーション」をメインスタイルとして表現していること。

※アニメーションの「表現の要素」を取り入れてできたスタイルは「アニメーションと同等のスタイル」、すなわち「アニメーションダンスとなり得るスタイル」。

3. 「アニメーション」のおもなスタイル

01. リキッドアニメーションスタイル、02. アニマトロニクススタイル、03. ストップモーションアニメーションスタイル、など。

※ダンスのジャンルの「アニメーション」で採用しているスタイルの「アニメーション」も、ダンスのジャンルの「ポッピング」で採用している「アニメーションスタイル」も、表現する内容に違いはなく同じ。

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次回について

以上が「アニメーションダンスの基礎」についての解説でした。

これまでの解説では折に触れてブガルー・シュリンプについて言及してきましたが、ここで一度情報を整理したいと思います。

第8回|ブガルー・シュリンプ

そこでシリーズ8回目の次回は「ブガルー・シュリンプ」にスポットを当て、アニメーションダンスを習得する上でこれだけは理解しておきたいブガルー・シュリンプの創り出した「アニメーション」のスタイルのルーツと、ブガルー・シュリンプの表現するダンスの「特徴」について詳しく解説していきたいと思います。

ブガルー・シュリンプ|これだけはおさえておきたいアニメーションダンスの「特徴」
ブガルー・シュリンプの創り出した「アニメーション」スタイルのルーツとダンスの「特徴」について解説します。

それではまた次のコンテンツでお会いしましょう。

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