ブガルー・シュリンプのアニメーションダンスから学ぶべきポイント

アニメーションダンスを習得するポイントを全12回にわたって解説していくシリーズの第5回目です。

ブガルー・シュリンプのアニメーションダンスから学ぶべきポイント

前回の解説

前回(第4回)の解説では、”アニメーションダンスと各種スタイル”にスポットを当てて解説しました。

【第4回】アニメーションダンスと各種スタイル

アニメーションダンスの基礎|代表的なスタイル・技の種類と使い方
アニメーションを表現するダンスの構成で各スタイルがどのような使い方をしているのかについて解説します。

第5回目となる今回は、オールドスクールアニメーションダンスのオリジネーターであるブガルー・シュリンプ(Boogaloo Shrimp)にスポットを当てて解説します。

オリジネーターは各種スタイルをどう表現しているのか

今日のアニメーションダンスは、Dubstepに代表される独特の強弱の激しい曲調と静かでエモーショナルな曲調のコントラストに合うように、ダンスの構成をオールドスクールアニメーションダンスの表現手法から再構築する事によって、見る者へ”スタイリッシュ”な感覚を呼び起こす事に成功しましたが、その表現構成を分解するとオールドスクールアニメーションダンスで培ってきた既成の各種スタイルと全て共通しているのが特徴です。

この事は裏を返すと、今日のアニメーションダンスの表現にはオールドスクールアニメーションダンスの基礎が重要であるという事を意味します。

それでは具体的にはオールドスクールアニメーションダンスから何をどのように学べば良いのでしょうか。

それはオールドスクールアニメーションダンスのオリジネーターであるブガルー・シュリンプからアニメーションダンスの構成を洗い出し分析する事、つまり、オリジネーターの表現するダンスの構成の中で各種スタイルがどのような使われ方で表現されているのかを学ぶ事です。

ブガルー・シュリンプのダンスの構成

ブガルー・シュリンプの名を一躍有名にし、そしてリキッドアニメーションスタイルがストリートダンサーの間で知られるようになったのは、1984年公開の映画「ブレイクダンス」(Breakin’)におけるブガルー・シュリンプのほうきを使ったソロパフォーマンスシーンです。

このシーンは冒頭からほうきを左右に振って掃除をするしぐさをモチーフに、ロボットの要素とカートゥーン・アニメーションの特徴であるパラパラ漫画を細かく滑らかにした動きの要素を組み合わせた”流れるように動くロボット”、すなわち“リキッドアニメーション”をさりげなく披露しています。

この”流れるように動くロボット”の表現は今日のアニメーションダンスでも主要な表現の一つとなっていますが、この原型を創ったのがブガルー・シュリンプです。

ブガルー・シュリンプのパフォーマンスでは、各種スタイルをダンスの構成に組み込むと共に、このリキッドアニメーションスタイルの表現をダンスの構成の随所に散りばめる事でブガルー・シュリンプのダンスの表現としています。

リキッドアニメーションの表現の仕組み

リキッドアニメーションスタイルを構成する要素を分解すると、ロボットの動きとカートゥーン・アニメーションの動きに大別されます。

ロボットの動きというのは、各部位の可動範囲を主に左右(X軸)・上下(Y軸)・前後(Z軸)・(各軸の)回転へ制限し、1モーションにつき1部位の機械的動作を基本原則とする動きです。

また、カートゥーン・アニメーションの動きというのは、アニメーション映画などに見られる1秒間につき24コマのセル画を配置する非常に滑らかなフルアニメーションに対し、TVアニメなどに見られる、コマ数を減らして12コマのセル画を配置したアニメーションの”パラパラ漫画を細かく滑らかに映し出したように見える動き”の事です。

つまり、ロボットダンスの特徴である制限された各部位の可動範囲を解放し、この可動範囲を解放したロボットの動きへカートゥーン・アニメーションの特徴であるパラパラ漫画を細かく滑らかに映し出した動きの要素を組み合わせると、”流れるように動くロボット”、すなわち”リキッドアニメーション”の表現となります。

身体の使い方のポイント

“リキッドアニメーション”の表現は、可動範囲を解放した”滑らかなロボットの動き”へティッキングの要素を入れて表現します。

身体の使い方のポイントは、ティッキングをフルで入れるのではなく「ティッキングの要素」を動きの中へ溶け込むように小刻み且つランダムに細かいアクセントをつけながら行います。

そうする事によって、流すところは流し、カチ・カチッ…と一つ一つの動きのぶれを抑えるところは抑えた滑らかさのある”流れるように動くロボット”である”リキッドアニメーション”を表現します。

参考

流れるように動くロボット(リキッドアニメーション)をメインに表現したアニメーションダンスです。

各種スタイルの解説

ポッピング

ポッピングは、曲のビートに反応してポーズを形成した直後に身体の各部位を同時に弾いて表現するスタイルです。

ポッピングの使われ方

今日のアニメーションダンスやオールドスクールアニメーションダンスにおけるポッピングの使われ方は、リキッドアニメーションスタイルのパートで使う要素として、ポッピングの持つ”身体の各部位を弾く”という表現の特徴を利用した使われ方と、他のスタイルへポッピングの要素を組み合わせて利用する使われ方の2つが採用されています。

特筆すべき点

特筆すべき点として、今日のアニメーションダンスやオールドスクールアニメーションダンスでは、エレクトリックブガルースタイルポッピン(ブーグスタイル)(※1)としてのポッピンスタイルは原則使用しない点が挙げられます。

※1:エレクトリックブガルーズが創出し、提唱しているダンススタイルの総称の事

ブガルー・シュリンプの場合

ブガルー・シュリンプの場合は、「オールドスクールアニメーションダンス」にカテゴライズされていながらもポッピンスタイルを使用しています。

ブガルー・シュリンプのポッピンスタイルは、エレクトリックブガルースタイルポッピン(ブーグスタイル)というよりもエレクトリックブガルーズ(Electric Boogaloos)と双璧をなすブーヤトライブ(Boo Yaa Tribe)の影響が見られるポッピンスタイルで、ブーヤトライブが好んで使用していたストラッティング(Strutting)を取り入れています。

ウェーブ

身体をコントロールして流れる水のように表現するウェーブ(ウェービング)は、今日のアニメーションダンスでもオールドスクールでも主要な表現の一つです。

今日のアニメーションダンスでは、ウェーブの流し始めから流し終わりまでをオーソドックスに流し、流すスピードによってウェーブに変化をつける表現と、ティッキングを組み合わせる表現の2つが主に採用されています。

ブガルー・シュリンプの場合

ブガルー・シュリンプのウェーブは、上述した表現の他にウェーブへポッピングを組み合わせた表現やバイブレーションを組み合わせた表現、そしてリキッドアニメーションを組み合わせた表現など、ウェーブにこだわりのあるバリエーションを持っているのが特徴です。

また、ブガルー・シュリンプのダンスの特徴の一つに、“モーションを途中で一旦止めてから続きを行う”というのがありますが、ウェーブの場合は”ウェーブを最後まで流しきらずに途中で止めて別のモーションへ切り替える”という高度なキャンセル技をさらりと使いこなしているところも特筆に値します。

ロボット

ロボットの動きは、各部位の可動範囲を主に左右(X軸)・上下(Y軸)・前後(Z軸)・(各軸の)回転へ制限し、1モーションにつき1部位の機械的動作を基本原則とします。

ロボットの使われ方

ロボットの使われ方は、ロボットスタイルのパートを設けて踊る場合と、パートを設けずに次のモーションへ移行する際のアクセントとして踊る場合の2通りがあります。

ブガルー・シュリンプの場合

ロボットスタイルのパートを設けて踊る場合、ブガルー・シュリンプは、各部位の可動範囲が固定された、1モーションにつき1部位の機械的動作を基本原則とする、いわゆる”ロボットダンスの動き”ではなく、各部位の可動範囲を解放した”滑らかなロボットの動き”を採用しています。

この表現の重要なポイントは、ロボットのパートでは“カートゥーン・アニメーションの要素”を入れていない点です。

つまり、ブガルー・シュリンプが表現するロボットのパートは”滑らかなロボットの動き”ではありますが、“リキッドアニメーション”の表現とは異なる表現であり、ブガルー・シュリンプは区別して表現しているという点がポイントになります。

また、パートを設けずに次のモーションへ移行する際のアクセントとして踊る場合、ブガルー・シュリンプは、ロボットが一定の速度で身体の向きを変更したり前傾する動きや、ロボットの機械的動作の特徴である動作の始動と停止時に生じる”ぶれ”の動きなどからロボットの要素を取り入れて表現しています。

ティッキング

ティッキングは、時計の秒針がカチカチ動いていくリズムに合わせるように、等間隔に順を追ってパラパラ漫画のような動きを行うスタイルです。

今日のアニメーションダンスにおけるティッキングの表現は、オールドスクールアニメーションダンスやオールドスクールアニメーションスタイルでの表現と同様、ウェーブや歩く動作の中に組み合わせて表現しています。

ブガルー・シュリンプの場合

ブガルー・シュリンプもウェーブや歩く動作の中に組み合わせる表現を採用していますが、とりわけブガルー・シュリンプの場合はスネークへティッキングを組み合わせて表現するスタイルを自身の表現の武器として持っており、映画「ブレイクダンス」の最初のバトルで敗戦後に行う特訓シーンのワンカットでは、立位姿勢を起点に首から上半身へかけてS字を描きながら行うティッキングを披露しています。

また、1983年のドキュメンタリー映画「Breakin’ ‘n’ Enterin’」の中で披露したスネーク×ティッキングのシーンは必見です。

スネーク(コブラ)

スネークやコブラなどのスネーキングは、今日のアニメーションダンスではあまり積極的に採用されていませんが、オールドスクールではよく採用されているスタイルです。

スネークの表現

スネークの表現は「ポッピン・タコ(Pop’N Taco)タイプ」と「ブガルー・シュリンプタイプ」の2つの表現に大別されます。

「ポッピン・タコタイプ」は、エレクトリックブガルーズのメンバーだったミステリアスポッパーズ(Mysterious Poppers)の”キングコブラ”ことダリル・ジョンソン(Darryl Johnson)が1979年に創り出したスタイルで、時計回り、あるいは反時計回りに胸を大きくアイソレーションする動きを基本とし、身体全体をロールしながら回転したり、身体のラインをS字状の体勢に形作る事で表現します。

これに対し「ブガルー・シュリンプタイプ」は、身体のラインをS字状の体勢に形作りながら前方に進んだり、低い姿勢からS字を描きながら上昇して表現します。

参考

ブガルー・シュリンプが採用しているS字上昇型のスネークを表現しています。

コブラの表現

また、コブラの表現も「ポッピン・タコタイプ」と「ブガルー・シュリンプタイプ」の2つの表現に大別されます。

「ポッピン・タコタイプ」は、ダリル・ジョンソンのスタイルを継承した、胸を大きくアイソレーションして身体全体をロールしながら回転する「360度全方向回転型」の表現です。

これに対し「ブガルー・シュリンプタイプ」は回転型ではありますが、ポッピン・タコのスタイルのように360度全方向回転型ではなく90度分割方式の360度回転型となっているのが特徴です。

ブガルー・シュリンプのスネーキング

ブガルー・シュリンプのスネーキングは、映画「ブレイクダンス」のオープニングシーンで、また、コブラは最初のバトルで敗戦後に行う特訓シーンのワンカットで確認する事が出来ます。

ブガルー・シュリンプのコブラの動きを見ると分かるように、ブガルー・シュリンプはただコブラの動きをしているのではなく、その動きの中にリキッドアニメーションスタイルの要素を織り交ぜて表現しています。

コミカルな動き

ブガルー・シュリンプが行うアニメーションのキャラクターが演じているようなコミカルな動きは、表情やしぐさ、車を運転する動きなど多岐にわたり、その表現がブガルー・シュリンプのダンスを魅力的にさせている一つの要素となっています。

これらの表現の事を、ブガルー・シュリンプは”リキッドアニメーション”と区別して“アニメーション”と呼んでおり、実際、これらの表現のインスピレーションはルーニー・テューンズ、トムとジェリー、ポパイなどに代表されるカートゥーン・アニメーションの中で描かれるキャラクター達のコミカルな動きから影響を受けています。

今日のアニメーションダンスでは採用されていないスタイルの一つです。

フロアムーブ

“ムーンウォーク”(バックスライド)の名称で知られているフロアムーブは、1983年のモータウン25で行われたショーにおいて、マイケル・ジャクソンがBillie Jeanのライヴパフォーマンス中にバックスライドを披露した事によって一般に広まりました。

そのマイケル・ジャクソンが過去のインタビューや1988年に出版された自伝「ムーンウォーク」(※2)において、自身のムーンウォークのルーツを、3人の子供達から”授かった”という表現を使っている由来は、ある日車で移動していたマイケルがふと車窓から外を見た時に、3人のストリートダンサーの子供達がバックスライドしている光景を見て非常に刺激を受け、帰宅直後に一人ムーンウォークの練習に没頭したという逸話から来ているのですが、この話に登場するマイケルに刺激を与えた”3人の子供達”の中にブガルー・シュリンプがいたと言われています。

ブガルー・シュリンプのフロアムーブ

ブガルー・シュリンプのフロアムーブは、1984年公開の映画「ブレイクダンス」で確認する事ができ、オープニングシーンでは回転ムーンウォーク、そしてほうきを使ったソロパフォーマンスシーンでは、ムーンウォーク(バックスライド)からサイドウォーク(サイドフロート)へ展開するフロアムーブを披露しています。

ブガルー・シュリンプのフロアムーブの特徴

ブガルー・シュリンプのエッジの効いた非常にキレの良いフロアムーブの秘訣は、つま先の指を立ててパフォーマンスしている事です。

ブガルー・シュリンプは、後にマイケル・ジャクソンのソロパートのアドバイザー(パーソナルポッピングインストラクター)として”シュリンプバージョン”のムーンウォークをマイケルへ伝授し、それが1984年以降のBillie Jeanのライヴ終盤におけるソロパートで採用される事となりますが、そのマイケル・ジャクソンもムーンウォーク時はつま先の指を立ててパフォーマンスしています。

※2:マイケル・ジャクソン著、田中康夫訳、河出書房新社、2009年

バイブレーション

主に連打するリズムに合わせ、全身を小刻みに震わせるバイブレーションは今日のアニメーションダンスにも見られる技の一つです。

今日のアニメーションダンスではシンプルにバイブレーションが行われる事が多いのですが、オールドスクールのバイブレーションでは歩きながらバイブレーションを行うバリエーションもあります。

ブガルー・シュリンプの場合

ブガルー・シュリンプの場合は、1980年代にバイブレーションへウェーブを織り交ぜ、ボディーウェーブからハンドウェーブにかけてインとアウトのバイブレーションを行うバリエーションを披露しています。

スローモーション

通常の時間の流れから一瞬にしてゆっくり流れる世界へと変化するスローモーションの表現は、今日のアニメーションダンスの主要な表現の一つです。

今日のアニメーションダンスでは、歩く動作の途中、ウェーブを流している途中、リキッドアニメーションの途中などから切り替える事で表現されています。

ブガルー・シュリンプの場合

ブガルー・シュリンプの場合は、動作の途中からスローモーションを行うのではなく、初動からスローモーションを行います。

例えば、初動からスローモーションで歩行し、途中から徐々にティッキングへ変化していくという表現などです。

次にやるべき事

オールドスクールアニメーションダンスのオリジネーターであるブガルー・シュリンプからダンスの表現方法を理解した次にやるべき事は、オールドスクールアニメーションスタイルのオリジネーターであるポッピン・タコからダンスの表現方法を学ぶ事です。

ポッピン・タコがブガルー・シュリンプと共にアニメーションダンスの歴史の文脈で残した功績は、ストリートダンスの中へ”アニメーション”を取り入れた全く新しい表現のスタイルを創り出した事です。

そのポッピン・タコが1983年にブガルー・シュリンプと出会い、双方の持っている要素を補完した事で創り出されたスタイルが「ストップモーション・アニメーションスタイル」でした。

そこで次回は、オールドスクールアニメーションスタイルのオリジネーターのポッピン・タコに焦点を当て、オリジネーターがダンスの構成の中で各種スタイルをどのように使い表現しているのかについて解説します。

【第6回】ポッピン・タコとアニメーションスタイル

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それでは、またの機会にお会いしましょう。

KAIZOU NINGEN

ダンス研究家。専門はムーンウォークとアニメーションダンス。幼少期にマイケル・ジャクソンのメカニカルな動きを取り入れたダンスに影響を受け、1990年よりダンスの研究を始める。マイケル・ジャクソン没後10年特集番組へ情報提供(TBS「一番だけが知っている」:2019年)。

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