ムーンウォークを表現する上で本当の意味において難しい事とは

マイケル・ジャクソンのムーンウォーク(バックスライド)を乗り越えるための考察を全5回にわたり解説していくシリーズの第5回目(最終回)です。
マイケル・ジャクソンのムーンウォークを乗り越える方法
マイケル・ジャクソンのムーンウォークを乗り越えるための考察と方法を全5回シリーズで解説します。
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ムーンウォークを表現する上で本当の意味において難しい事とは

「ムーンウォーク(バックスライド)を表現する上で本当の意味において難しい事」とは、現在ほぼすべての人が共通認識として持っている、マイケル・ジャクソンのムーンウォーク(バックスライド)が「絶対的基準」である、という価値観に対し、どうすればこれまでの価値観を乗り越え、「自分の表現としてのバックスライド」を提示できるか、という事にあります。

そこでシリーズ最終回となる今回は、マイケル・ジャクソンのムーンウォーク(バックスライド)を乗り越えるための方法にスポットを当て、その「一つの答え」について詳しく解説していきたいと思います。

「絶対的基準」として君臨するマイケルのムーンウォークの影響力

マイケル・ジャクソンのムーンウォーク(バックスライド)から私たちが学ぶべき事とは、クリエイティブにおける「既存の表現を解釈する考え方」、「オリジナリティーを提示する考え方」、「新しい価値観を創り出す考え方」などを通して、マイケルのムーンウォーク(バックスライド)からクリエイティブの「本質」を見極め、自分の表現としてつかみ取る事にあります。

なぜなら私たちがバックスライドを表現する上で取り組むべき「本当の課題」とは、マイケル・ジャクソンのムーンウォーク(バックスライド)の「クリエイティブの本質」について学び取り、「自分の表現としてのバックスライド」を提示する事によってマイケルのムーンウォーク(バックスライド)を乗り越え、独創的に新しく展開していく事だからです。

2つの「やってはいけない事」

しかしながらこれまで数十年もの長い間、この「本当の課題」をスルーする形で、クリエイティブの観点からすると「やってはいけない事」が延々と繰り返されてきました。

それが次の2つです。

1. マイケル・ジャクソンのムーンウォーク(バックスライド)の完全コピー

2. マイケル・ジャクソンのムーンウォーク(バックスライド)の完全コピーをベースに技術の精度を高めたバックスライド

1. マイケルのムーンウォークの完全コピー

バックスライドには、現代においても未だに「マイケル・ジャクソンの残像」がつきまとっています。

たとえばそれはオーディエンスが表現者の演じるバックスライドを見る際に行う「評価方法」にも顕著にあらわれており、この「評価方法」はバックスライドを表現する者にとってある意味「宿命」と言っても良いでしょう。

その「オーディエンスによる評価方法」とは、表現者の演じるバックスライドを見る際にかならず「マイケル・ジャクソンのムーンウォーク像」というフィルターと「表現者のバックスライド」を頭の中で重ねて比較する事によって評価する方法です。

表現者にとって、この「宿命」に対する一番の安易な解決方法は、「マイケル・ジャクソンのムーンウォーク像」のフィルターに合致するようにマイケルのムーンウォーク(バックスライド)を完全コピーし完全再現する事です。

しかしながら、いくらオーディエンスが「マイケル・ジャクソンのムーンウォーク像」のフィルターに合致するようなバックスライドを求めているからといって、オーディエンスに迎合してマイケルのムーンウォーク(バックスライド)を完全コピーし完全再現してしまうのは、クリエイティブの観点からすると「やってはいけない事」です。

なぜなら、世の中に「新しい表現」、「価値観」を何も提示していないからです。

2. 技術の精度を高めたバックスライド

そして前述の「宿命」に対して表現者が次に考える安易な解決方法は、マイケル・ジャクソンのムーンウォーク(バックスライド)の完全コピーをベースに、「技術」でマイケルよりも精度の高いバックスライドを提示してオーディエンスを納得させようとする事です。

しかし、マイケル・ジャクソンがたどった道は「マイケル専用の道」であり、マイケル自身がその道の延長線上に到達する事によって意味があります。

そのため、他の人がマイケルと同じ道をなぞり、マイケルが打ち立てたムーンウォーク(バックスライド)の到達点までをトレースして完全コピーし、その地点から先の延長線上に到達してマイケルよりも技術の精度を高めたバックスライドを提示しても、それは「二番煎じ」でしかないのです。

したがって、クリエイティブの観点からするとこれも「やってはいけない事」です。

なぜなら、1と同様、世の中に「新しい表現」、「価値観」を何も提示していないからです。

なぜ「やってはいけない事」が延々と繰り返されてきたのか

しかしながら、なぜこれまで数十年もの長い間、上述したような「やってはいけない事」が延々と繰り返されてきたのでしょうか。

それは、マイケル・ジャクソンのムーンウォーク(バックスライド)が現在においても「絶対的基準」として君臨しているからです。

この影響力はバックスライドを表現する表現者、それを見るオーディエンス、それぞれの意識の中に根深く浸透しています。

「絶対的基準」の影響力①:表現者

バックスライドを表現する表現者においては、表現者がマイケル・ジャクソンのムーンウォーク(バックスライド)に心酔してしまうと、マイケルのムーンウォーク(バックスライド)が「絶対的基準」となってしまいます。

そうなると、いつの間にか「絶対的基準」であるマイケル・ジャクソンのムーンウォーク(バックスライド)を完全コピーし完全再現する事がクリエイティブを追求する目標であると勘違いしてしまうようになり、その結果、その基準に「近づこう」という思考はあっても、「超えよう」という思考は持たなくなってしまうのです。

「絶対的基準」の影響力②:オーディエンス

バックスライドを見るオーディエンスにおいては、前述のようにオーディエンスが表現者の演じるバックスライドを見る際にかならず「マイケル・ジャクソンのムーンウォーク像」のフィルターと「表現者のバックスライド」を頭の中で重ねて比較し評価する方法に顕著にあらわれています。

この評価方法によってオーディエンスは、「マイケル・ジャクソンのムーンウォーク像」のフィルターに限りなく重なるバックスライドに対しては「上手い」と評価し、ずれていると容赦なく「下手」と評価するのです。

いまの私たちに必要な事

このように、現在においてもマイケル・ジャクソンのムーンウォーク(バックスライド)を「絶対的基準」とする影響下にある私たちですが、ほとんどの人が「ある事」に気づかないままバックスライドを表現しようとしています。

それは、私たちが現在、マイケル・ジャクソンがバックスライドをはじめとする「ムーンウォーク」の表現領域のすべてを完結してしまった後の世界線に立っている、という事です。

この事は、私たちがマイケル・ジャクソンの取り組んだ事と同じ方向へ進んでも、マイケルのバックスライドをはじめとする、マイケルが確立した各種「ムーンウォーク」を超える可能性のほとんどないところまでマイケルが先に行き着いてしまった事を意味しています。

マイケル・ジャクソンのムーンウォーク(バックスライド)が現在においても「絶対的基準」として君臨しているのは、このような背景があるためです。

「ある盲点」とは

しかしながら、私たちは「ある盲点」にそろそろ気づくべき時が来ています。

それは、マイケル・ジャクソンのムーンウォーク(バックスライド)が「絶対的基準」として機能しているのは、あくまでマイケルが完結した「ムーンウォーク」の表現領域の中だけである、という事です。

つまり、いまはマイケル・ジャクソンのムーンウォーク(バックスライド)が「絶対的基準」としてあつかわれていたとしても、それが永遠に君臨し続けるわけではなく、やがてクリエイティブを追求する表現者によって次の「基準」へと更新されていく「暫定的基準」でしかないのです。

この事は、ほぼすべての表現者とオーディエンスが共通認識として持っている、マイケル・ジャクソンのムーンウォーク(バックスライド)が「絶対的基準」である、という価値観が、実は暫定的価値観であり絶対的価値観ではない、という事にもつながります。

マイケル・ジャクソンが「ムーンウォーク」の表現領域のすべてを完結してしまった後の世界線に立っているいまの私たちに必要な事は、マイケルが完結した「ムーンウォーク」の表現領域の中から抜け出し、周りの価値観に左右されない「自分の価値観」を持つ事です。

バックスライドを表現する上で本当の意味において難しい事とは

マイケル・ジャクソンの「ムーンウォーク」の表現領域の中にいる人にとっての「バックスライドを表現する上で難しい事」とは、「絶対的基準」であるマイケルのムーンウォーク(バックスライド)を完全コピーし完全再現する事によって「どうすればマイケルに近づけるか」、あるいは、完全コピーをベースに「どうすればマイケルよりも精度の高いバックスライドができるか」です。

一方、マイケル・ジャクソンが完結した「ムーンウォーク」の表現領域の中から抜け出し、周りの価値観に左右されない「自分の価値観」を持った人にとっての「バックスライドを表現する上で本当の意味において難しい事」とは、もはやそのような低いレベルではない、という事に気づく事でしょう。

つまり、私たちにとって「バックスライドを表現する上で本当の意味において難しい事」とは、現在ほぼすべての人が共通認識として持っている、マイケル・ジャクソンのムーンウォーク(バックスライド)が「絶対的基準」である、という価値観に対し、どうすればこれまでの価値観を乗り越え、「自分の表現としてのバックスライド」を提示できるか、という事にあるのです。

マイケルのムーンウォークを乗り越える方法

以上を踏まえ、マイケル・ジャクソンのムーンウォーク(バックスライド)を乗り越えるための「突破口」はどこにあるのでしょうか。

それは、マイケル・ジャクソンが自身のムーンウォーク(バックスライド)を確立するためにとった「戦略」に「突破口」があります。

マイケルのムーンウォークの3つの「戦略」とは

その「戦略」をまとめると次の3つです。

1. 解釈

2. 新しい価値観の確立

3. やり続ける

1. 解釈

マイケル・ジャクソンはかかとからつま先にかけて後方へ交互にスライドしながら移動していく「バックスライド」を、マイケル自身のクリエイティビティ(創造性)によって、月の上を歩いているかのように後ろと前へ同時に歩いていく「ムーンウォーク」である、と「解釈」しました。

2. 新しい価値観の確立

そして、既存のバックスライドにも既存のムーンウォーク(※1)にも属さない「新しい価値観」として、マイケル・ジャクソンが「解釈」するマイケルバージョンのバックスライド、すなわち、月の上を歩いているかのように後ろと前へ同時に歩いていく「ムーンウォーク」を提示したのが1983年のモータウン25(※2)での初披露でした。

※1:オリジナルムーンウォーク(Original Moonwalk)の事。エレクトリックブガルーズ(Electric Boogaloos)のブガルー・サム(Boogaloo Sam)が考案。直立姿勢からリラックスした状態で360度の弧を描くように少しずつ方向を変えながら、いかにも身体が無重力の月面空間を漂っているかの様に歩行していく表現。

※2:マイケル・ジャクソンがジャクソン5時代に所属していたレコードレーベル「モータウン」の設立25周年を記念して開催された音楽の祭典。そのハイライトは1983年5月16日に全米でTV放送された。祭典の正式名称は「Motown25: Yesterday, Today, Forever」(モータウン25:昨日、今日、そして永遠に)。

3. やり続ける

それ以降、マイケル・ジャクソンはムーンウォーク(バックスライド)を生涯にわたってやり続けた事によって、バックスライドが「ムーンウォーク」としてマイケルの代名詞となりました。

マイケルのムーンウォークを乗り越えるための3つの「キーワード」とは

これを踏まえ、上述の3つの「戦略」は、裏を返すとマイケル・ジャクソンのムーンウォーク(バックスライド)を乗り越えるための「キーワード」となります。

つまり、私たちがマイケル・ジャクソンのムーンウォーク(バックスライド)を乗り越えるためには、マイケルのムーンウォーク(バックスライド)の「技術」に対して乗り越えるのではなく、「技術」をすべて体得した上でマイケルが自身のムーンウォーク(バックスライド)を確立するためにとった「戦略」に対して乗り越えれば良いのです。

その具体的方法は次のとおりです。

1. 解釈

マイケル・ジャクソンが既存のバックスライドを、月の上を歩いているかのように後ろと前へ同時に歩いていく「ムーンウォーク」である、と解釈したように、表現者はマイケルのムーンウォーク(バックスライド)に対し、表現者自身のクリエイティビティ(創造性)によって「自分の解釈によるバックスライドの表現」はこうである、と「解釈」します。

2. 新しい価値観の確立

次に、現在ほぼすべての人が共通認識として持っている、マイケル・ジャクソンのムーンウォーク(バックスライド)が「絶対的基準」である、という価値観に対し、それとは別の「新しい価値観」として「表現者の解釈によるバックスライドの表現」を提示します。

3. やり続ける

そして、提示した「表現者の解釈による新しい価値観のバックスライドの表現」を生涯「やり続ける」事です。

マイケルのムーンウォークを乗り越えるための第一歩とは

つまりこの事から、マイケル・ジャクソンのムーンウォーク(バックスライド)を乗り越えるために私たちが取るべき「戦略」の第一歩は、「表現者の解釈による新しい価値観のバックスライドの表現」を提示する事です。

「表現者の解釈による新しい価値観のバックスライドの表現」を提示する方法

それではどのようにして「表現者の解釈による新しい価値観のバックスライドの表現」を提示すれば良いのでしょうか。

それは現在の「絶対的基準」となっているマイケル・ジャクソンのムーンウォーク(バックスライド)に対し、マイケルはこのように表現しているが「自分の解釈による表現」はこうである、と相対比較して説明する事によって、マイケルのムーンウォーク(バックスライド)を「絶対的基準」とする価値観を乗り越える「新しい価値観のバックスライドの表現」を提示する事です。

マイケルのムーンウォークを乗り越えるための「一つの答え」とは

その「一つの答え」として、ここからは実際に私のバックスライドを例に解説していきます。

まずはこの動画をご覧ください。

このバックスライドのどこにマイケル・ジャクソンのムーンウォーク(バックスライド)に対する私の「解釈」によって表現された「新しい価値観のバックスライド」を読み取れば良いのでしょうか。

そのおもなポイントは次のとおりです。

1. 表現コンセプトの違い

2. 視覚効果の違い

①歩幅、②前傾角度、③つま先を立てる角度

1. 表現コンセプトの違い

「表現コンセプト」とは、たとえばバックスライドとマイケル・ジャクソンの「ムーンウォーク」の違いが、前者が「足元に限定した表現」であるのに対し、後者が足元だけではなく身体全体を一つの「表現」としているところに違いがあるように、「表現」そのものを決定づける骨格となる思想の事です。

マイケル・ジャクソンの場合

1988年に出版された自伝「ムーンウォーク」(※3)でマイケル・ジャクソンは、1983年のムーンウォーク(バックスライド)初披露のために事前に考えていた事として、Billie Jeanの間奏の部分で月の上を歩いているかのように後ろと前へ同時に歩いてみる事だったと語っています。

つまりマイケル・ジャクソンは、月の上を歩いているかのように後ろと前へ同時に歩いていくマイケルバージョンのバックスライド、すなわち「前に進んでいるようで後ろへ進んでいくバックスライド」を自身の掲げる「ムーンウォーク」の表現コンセプトとしています。

※3:マイケル・ジャクソン著、田中康夫訳、河出書房新社、2009年。

私の場合

これに対し私の場合は、「メカニカルに後ろへ進んでいくバックスライド」を表現コンセプトとしています。

2. 視覚効果の違い①:歩幅

「視覚効果」とは、言葉で定義した「表現コンセプト」を表現者の解釈によって具体的にダンスへと可視化した表現の事です。

これを踏まえ、「視覚効果の違い」の1点目は、「歩幅」の違いです。

マイケル・ジャクソンの場合

マイケル・ジャクソンのムーンウォーク(バックスライド)のおもな歩幅は、自分の足のサイズの1〜1.5倍で、最終的に採用した歩幅は1倍です。

具体的には、1984年のジャクソンズヴィクトリーツアー以降「歩幅を大きく取りながらバックスライドする表現」を追求し1992年のデンジャラスツアーで一つの完成形に到達した時の歩幅が、自分の足のサイズの1.5倍で、1983年のモータウン25以来追求してきた「月の上を歩いているかのように後ろと前へ同時に歩いていくムーンウォーク」の表現コンセプトである「前に進んでいるようで後ろへ進んでいくバックスライド」を1996年のヒストリーツアーで完成した時の歩幅が、自分の足のサイズの1倍です。

私の場合

私の場合、バックスライドのおもな歩幅は、自分の足のサイズの0.8~1.4倍です。

私のバックスライドの動画では、マイケル・ジャクソンがムーンウォーク(バックスライド)の完成に到達した1996年のヒストリーツアーの歩幅の「1倍」という数値にリスペクトの意味を込めて、自分の足のサイズの1倍を推移するように表現しています。

2. 視覚効果の違い②:前傾角度

「視覚効果の違い」の2点目は、「前傾角度」の違いです。

※本解説における「前傾角度」とは、「直立姿勢を0°として、その姿勢から前傾した時に生じる角度」の事です。

マイケル・ジャクソンの場合

マイケル・ジャクソンがムーンウォーク(バックスライド)を行う際に取る前傾角度は、80年代と90年代で異なっています。

具体的には、1987年のバッドツアーでは前傾角度15°で、1992年のデンジャラスツアー以降は前傾角度10°です。

私の場合

私の場合は、1987年のバッドツアーの前傾角度15°を採用しています。

2. 視覚効果の違い③:つま先を立てる角度

「視覚効果の違い」の3点目は、「つま先を立てる角度」の違いです。

「つま先を立てる角度」の使い方には、表現者によって次のAとBの2つのタイプがあります。

A. 「つま先の角度固定」タイプ

「つま先を立てた方の足」の「つま先を立てる角度」を自分の可動範囲の半分以上の高さまで上げて固定し、その状態から「つま先を立てていない方の足」をバックスライドする。

B. 「つま先の2段角度」タイプ

「つま先を立てた方の足」の「つま先を立てる角度」を自分の可動範囲の半分まで上げ、「つま先を立てていない方の足」をバックスライドしている時に「つま先を立てる角度」をさらに最高角度の90°近くまで上げる。

マイケル・ジャクソンの場合

これを踏まえ、マイケル・ジャクソンは左足をAの「つま先の角度固定」タイプ、右足をBの「つま先の2段角度」タイプと、「つま先を立てる角度」の使い方を左右別々に表現しています。

前述のようにマイケル・ジャクソンは、かかとからつま先にかけて後方へ交互にスライドしながら移動していく「バックスライド」を、月の上を歩いているかのように後ろと前へ同時に歩いていく「ムーンウォーク」であると「解釈」しました。

つまりマイケル・ジャクソンが自身の「ムーンウォーク」の表現で実現したかった事は、後ろに進む表現だけではなく「後ろと前へ同時に歩いていく」、すなわち「前に進んでいるようで後ろに進んでいくバックスライド」を求めていた事です。

そしてこの「前に進んでいるようで後ろに進んでいくバックスライド」を実現するためにマイケル・ジャクソンが実践している表現が、「つま先を立てる角度」の使い方を左右別々に表現する、という表現です。

つまりマイケル・ジャクソンは、視覚効果として「月の上を歩いているかのように後ろと前へ同時に歩いていくムーンウォーク」を表現するために、左足を「つま先の角度固定」タイプ、右足を「つま先の2段角度」タイプとする事で、左足は「後ろに進んでいく表現」、右足は「前に進んでいるようで後ろに進んでいく表現」と、それぞれの役割を使い分けて表現しています。

私の場合

これに対し私の場合は、両足へ「つま先の角度固定」タイプを採用しています。

バックスライド時に「つま先を立てた方の足」の「つま先を立てる角度」を自分の可動範囲の半分以上の高さまで上げて固定し、その状態から「つま先を立てていない方の足」をバックスライドしている時もそれ以上角度を上げずに固定するという使い方です。

この「つま先の角度の固定」タイプを採用している理由は、私の表現するバックスライドの「表現コンセプト」である「メカニカルに後ろへ進んでいくバックスライド」を視覚効果として表現しているからです。

「つま先の角度の固定」は、バックスライドのタイムラインに沿ってリアルタイムで後方へ移動していく動きの中で「唯一動きを止める箇所」であり、動と静の制御のコントラストを意識的に行う事で「メカニカルに後ろへ進んでいくバックスライド」を表現しています。

私の「解釈」によるバックスライドの表現

以上を踏まえ、ここでもう一度、私の表現するバックスライドの動画を見てみましょう。

このバックスライドがマイケル・ジャクソンのムーンウォーク(バックスライド)の完全コピーや「技術」でマイケルよりも精度の高いバックスライドを提示したものではない、現在のマイケルのムーンウォーク(バックスライド)を「絶対的基準」とする価値観を乗り越える「新しい価値観」の「一つの答え」として提示した、私の「解釈」によるバックスライドである、という事が見えてきたのではないでしょうか。

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マイケルが確立したすべての「ムーンウォーク」の表現領域を乗り越える方法

今回はマイケル・ジャクソンの「ムーンウォーク」を乗り越えるための第一歩として「バックスライド」を例に解説しましたが、この方法によってマイケル・ジャクソンが確立したすべての「ムーンウォーク」の表現領域を乗り越える事ができます。

具体的には、マイケル・ジャクソンが確立したマイケルバージョンの「ムーンウォーク」の表現領域に対し、自分バージョンの「ムーンウォーク」の表現領域を新規で立ち上げます。

そしてその中にあるバックスライド、サイドウォークなど、マイケル・ジャクソンが確立したマイケルバージョンの各種ムーンウォークと相対化した「表現者の解釈による新しい価値観のムーンウォークの表現」として、自分バージョンの各種ムーンウォークの表現を一つ一つ確立していけば良いのです。

そうする事によって先行するマイケルの確立したマイケルバージョンの各種ムーンウォークの表現に対して「自分バージョンの各種ムーンウォークの表現」へとアップデートした事になるため、結果としてマイケルが確立したすべての「ムーンウォーク」の表現領域を乗り越えた事になるのです。

それではまた次のコンテンツでお会いしましょう。

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KAIZOU NINGEN

ダンス研究家。専門はムーンウォークとアニメーションダンス。幼少期にマイケル・ジャクソンのメカニカルな動きを取り入れたダンスに影響を受け、1990年よりダンスの研究を始める。マイケル・ジャクソン没後10年特集番組へ情報提供(TBS「一番だけが知っている」:2019年)。

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