マイケル・ジャクソンはムーンウォークの神様ではない理由

マイケル・ジャクソンのムーンウォーク(バックスライド)を乗り越えるための考察を全5回にわたり解説していくシリーズの第2回目です。
マイケル・ジャクソンのムーンウォークを乗り越える方法
マイケル・ジャクソンのムーンウォークを乗り越えるための考察と方法を全5回シリーズで解説します。
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マイケル・ジャクソンはムーンウォークの神様ではない理由

私たちはいままでずっとマイケル・ジャクソンのムーンウォーク(バックスライド)をめぐる「勘違い」と「思い込み」の渦中にいて「あること」に気づいていませんでした。

それは、マイケル・ジャクソンのムーンウォーク(バックスライド)は「乗り越えることができる」ということです。

現在でも多くの人がマイケル・ジャクソンを「ムーンウォーク(バックスライド)の神様」としてリスペクトし続けていると同時に、マイケルのムーンウォーク(バックスライド)を「誰も乗り越えることができない」と考えています。

しかしながら、本来マイケル・ジャクソンを「ムーンウォーク(バックスライド)の神様」としてリスペクトすることと、マイケルのムーンウォーク(バックスライド)を「誰も乗り越えることができない」と考えることは切り離して考えなければなりません。

なぜならマイケル・ジャクソンはムーンウォーク(バックスライド)のレジェンドではありますが、未来永劫、誰も乗り越えることのできないムーンウォーク(バックスライド)の神様ではないからです。

そこで今回は、マイケル・ジャクソンのムーンウォーク(バックスライド)をめぐる「勘違い」と「思い込み」にスポットを当て、その真相について詳しく解説していきたいと思います。

マイケルはなぜレジェンドなのか

マイケル・ジャクソンはなぜムーンウォーク(バックスライド)のレジェンドであると言えるのでしょうか。

それは、マイケル・ジャクソンがムーンウォーク(バックスライド)のパイオニア(先駆者)でありイノベーター(革新者)であるからです。

レジェンドになりうる3つのタイプとは

レジェンドになりうる資質を持っている表現者は、大別するとおもに次の3タイプです。

1. 完全新規の表現を提示した人:オリジネーター(考案者)

2. 時代のトレンドとなる表現を提示した人:パイオニア(先駆者)

3. 独創的に新しく展開した表現を提示した人:イノベーター(革新者)

1. 完全新規の表現を提示した人:オリジネーター(考案者)

1つ目のタイプは、「完全新規の表現を提示した人:オリジネーター(考案者)」です。

このタイプは、これまでになかったまったく新しいダンスのジャンルやスタイルを創り出した人が該当します。

2. 時代のトレンドとなる表現を提示した人:パイオニア(先駆者)

2つ目のタイプは、「時代のトレンドとなる表現を提示した人:パイオニア(先駆者)」です。

このタイプは、オリジネーター(考案者)が創り出した完全新規のダンスのジャンルやスタイルをいち早く取り入れて「時代の最先端の表現」として一般に広めた人が該当します。

3. 独創的に新しく展開した表現を提示した人:イノベーター(革新者)

3つ目のタイプは、「独創的に新しく展開した表現を提示した人:イノベーター(革新者)」です。

このタイプは、オリジネーター(考案者)が創り出した完全新規のダンスのジャンルやスタイルにインスピレーションを受けて、それを自身のクリエイティビティ(創造性)によって独創的に新しく展開した人が該当します。

マイケルはどのタイプのレジェンドか

これを踏まえ、マイケル・ジャクソンはどのタイプに該当するのかについて見ていきます。

マイケル・ジャクソンの場合、当時ストリートダンサーの間で流行りつつあった「バックスライド」にいち早く着目し、1983年のモータウン25(※1)での初披露によってバックスライド(ムーンウォーク)が一般に広く知られるようになりました。

このことでマイケル・ジャクソンは、2の「時代のトレンドとなる表現を提示した人」であるパイオニア(先駆者)の地位を確立しました。

またマイケル・ジャクソンは、かかとからつま先にかけて後方へ交互にスライドしながら移動していく表現である「バックスライド」を自身のクリエイティビティ(創造性)によって、月の上を歩いているかのように後ろと前へ同時に歩いていく「ムーンウォーク」である、と「解釈」しました。

そして1983年のモータウン25での初披露で、既存のバックスライドにも既存のムーンウォーク(※2)にも属さない「新しい価値観」として、マイケル・ジャクソンが「解釈」するマイケルバージョンのバックスライド、すなわち、月の上を歩いているかのように後ろと前へ同時に歩いていく「ムーンウォーク」を提示し、それを生涯にわたってやり続けたことによって、3の「独創的に新しく展開した表現を提示した人」であるイノベーター(革新者)の地位を確立しました。

このことからマイケル・ジャクソンは、2の「時代のトレンドとなる表現を提示した人」であるパイオニア(先駆者)の地位を確立したと共に、3の「独創的に新しく展開した表現を提示した人」であるイノベーター(革新者)の地位も確立したムーンウォーク(バックスライド)のレジェンドである、と言えます。

※1:マイケル・ジャクソンがジャクソン5時代に所属していたレコードレーベル「モータウン」の設立25周年を記念して開催された音楽の祭典。そのハイライトは1983年5月16日に全米でTV放送された。祭典の正式名称は「Motown25: Yesterday, Today, Forever」(モータウン25:昨日、今日、そして永遠に)。

※2:オリジナルムーンウォーク(Original Moonwalk)のこと。エレクトリックブガルーズ(Electric Boogaloos)(※3)のメンバーのティッキン・ウィル(Tickin’ Will)が1975年に考案し、リーダーのブガルー・サム(Boogaloo Sam)(※4)によって発展していったスタイル。ひざをやわらかく使いながら円を描くように体重移動していく表現を利用して、月の上を歩いているかのようにゆっくりと歩いてみせる表現に特徴がある。

※3:ブガルー・サムによって1977年に結成された伝説的ダンスクルー。曲のビートに反応してポーズを形成した直後に身体の各部位を同時に弾いて表現する「ポッピング」(Popping)と、腰・ひざ・頭などの身体のあらゆる部分のロールを自在に使いこなすことによって流動的に表現する「ブガルー」(Boogaloo)の2大ダンススタイルを世に送り出した。なお、結成時の1977年は、エレクトリックブガルーロッカーズ(Electric Boogaloo Lockers)の名称でカリフォルニア州フレズノを本拠地としていたが、1978年にカリフォルニア州ロングビーチへ移転後「エレクトリックブガルーズ」へと改名した。

※4:エレクトリックブガルーズのリーダー。曲のビートに反応してポーズを形成した直後に身体の各部位を同時に弾いて表現する「ポッピング」と、腰・ひざ・頭などの身体のあらゆる部分のロールを自在に使いこなすことによって流動的に表現する「ブガルー」を創り出したオリジネーター。マイケル・ジャクソンの作品にはショートフィルム「ゴースト」に出演した。

マイケルが神様ではない理由

それではマイケル・ジャクソンが「誰も乗り越えることのできないムーンウォーク(バックスライド)の神様ではない」と言えるのはなぜなのでしょうか。

それはマイケル・ジャクソンのムーンウォーク(バックスライド)が、バックスライドの「絶対的基準」ではなく「暫定的基準」でしかないからです。

レジェンドが背負う宿命

歴史の一時代を築いたレジェンドは「ある宿命」を背負っています。

それは、次に続く者があらわれ、超えられる時がかならず来る、ということです。

なぜならクリエイティブの歴史は、常に時代の基準を創ったレジェンドと次に続く者との下克上で成り立っているからです。

つまり、次に続く者が前の時代のレジェンドが創った基準を乗り越えて新しい時代の基準を創ると、またその次に続く者がそれを乗り越えに来るというように、これらの繰り返しによってクリエイティブの歴史が塗り替えられているからです。

マイケルは「暫定的基準」でしかない

これはバックスライドにおいても同じことが言えます。

つまり、現在のバックスライドの「絶対的基準」となっているマイケル・ジャクソンのムーンウォーク(バックスライド)は、いまはその道の「絶対的基準」のようにあつかわれていますが、長期的な視野に立って考えると永遠にその道の「絶対的基準」として君臨し続けるわけではなく、いずれクリエイティブを追求する「表現者」によって次の「基準」へと更新されていく「暫定的基準」でしかないのです。

ムーンウォークの「基準」の変遷

ムーンウォーク(バックスライド)の「基準」の変遷を見ていくと、少なくとも6回の「基準」の更新がおこなわれています。

この6回の「基準」の更新で特筆すべきは、1回目はマイケル・ジャクソンが先人を乗り越えて「基準」を更新し、2回目はマイケルを乗り越えてマイケル以外の人物(ブガルー・シュリンプ)が「基準」を更新すると今度はマイケルがその「基準」を乗り越えて3回目の「基準」を更新し、それ以降はマイケル本人が自分自身を乗り越えることによって「基準」を更新してきたことです。

バックスライドの「基準」のはじまり

ストリートダンスの歴史でバックスライドは、エレクトリックブガルーズのクリーピン・シッド(Creepin Sid)(※5)が1978年11月に音楽番組「Midnight Special」で披露したのが全米でTV放送されたはじめてのバックスライドです(※6)。

この翌年の1979年11月にジェフリー・ダニエル(Jeffrey Daniel)(※7)は、キャスパー・キャ二デイト(Geron “Caszper” Canidate)(※8)とクーリー・ジャクソン(Derek “Cooley” Jaxson)(※9)と共にダンスクルー「Jeffrey Daniel & The Eclipse」を結成し、当時全米で最先端のストリートダンスを発信していた音楽番組「ソウルトレイン」でバックスライドを披露します。

当時はこの技術ができる人が少なかったため、「かかとからつま先にかけて後方へ交互にスライドしながら移動できる」という技術そのものに価値があり、それがストリートダンサーの間で「基準」となっていました。

※5:ストリートダンスの歴史において1978年に全米のTV放送ではじめてバックスライドを披露したレジェンド。代表的な表現には、前述のかかとからつま先にかけて後方へ交互にスライドしながら移動していく「バックスライド」や、バックスライドの逆バージョンとして、つま先からかかとにかけて前方へ交互にスライドしながら移動していく「フロントスライド」、左右の足を横方向へ交互にスライドしながら移動していく「サイドスライド」、そして自身のダンサーネームの由来となっている、その場にとどまりながらゆっくりとバックスライドしているようにみせる「クリーピング」がある。なお、エレクトリックブガルーズバージョンのバックスライドはメンバーのティッキン・ウィル(Tickin’ Will)が1975年に考案し、後年その動きを見て学んだクリーピン・シッドが「より滑らかで、より長い距離のバックスライド」の表現へと改良した。

※6:かかとからつま先にかけて後方へ交互にスライドしながら移動していくバックスライドの表現は、タップダンスの分野でビル・ベイリー(Bill Bailey)が1943年公開の映画「Cabin In The Sky」でバックスライドを披露しているのが一番古いとされている(※参照:YouTube)。

※7:マイケル・ジャクソンがムーンウォーク(バックスライド)を自分の表現として確立していく過程において影響を受けた2人のレジェンドのうちの一人。1980年にマイケルへバックスライドを教えたことをきっかけに、のちに1987年公開のショートフィルム「Bad」や1988年公開の映画「ムーンウォーカー」のSmooth Criminalのコレオグラファー兼ダンサーとしてマイケルの仕事にたずさわり、Badでは地下鉄構内のシーン、Smooth Criminalでは、身体を前傾する通称「ゼログラビティ」から回転ムーンウォークへ展開するシーンでマイケルの脇を固める4人のダンサーの一人として出演した。

※8:当時全米で最先端のストリートダンスを発信していた音楽番組「ソウルトレイン」にエレクトリックブガルーズのダンススタイルの一つである「バックスライド」を早い時期に持ち込み披露したダンサーの一人。1979年にクーリー・ジャクソンと共にマイケル・ジャクソンへバックスライドを教えたことをきっかけに、1987年公開のショートフィルム「Bad」では地下鉄構内のシーン、1988年公開の映画「ムーンウォーカー」ではSmooth Criminalの、身体を前傾する通称「ゼログラビティ」から回転ムーンウォークへ展開するシーンでマイケルの脇を固める4人のダンサーの一人として出演した。

※9:当時全米で最先端のストリートダンスを発信していた音楽番組「ソウルトレイン」にエレクトリックブガルーズのダンススタイルの一つである「バックスライド」を早い時期に持ち込み披露したダンサーの一人。1979年にキャスパー・キャニデイトと共にマイケル・ジャクソンへバックスライドを教えたことをきっかけに、1988年公開の映画「ムーンウォーカー」のSmooth Criminalでは、身体を前傾する通称「ゼログラビティ」から回転ムーンウォークへ展開するシーンでマイケルの脇を固める4人のダンサーの一人として出演した。

1回目の「基準」の更新

その後1983年のモータウン25で、マイケル・ジャクソンがBillie Jeanの間奏部分で披露した「ムーンウォーク」によってバックスライドが一般に広く知られるようになります。

マイケル・ジャクソンは、かかとからつま先にかけて後方へ交互にスライドしながら移動していく表現である「バックスライド」を、自身のクリエイティビティ(創造性)によって、月の上を歩いているかのように後ろと前へ同時に歩いていく「ムーンウォーク」である、と「解釈」し、「前に進んでいるようで後ろへ進んでいくバックスライド」として一般に広めたことにより1回目の「基準」が更新されます。

2回目の「基準」の更新

その翌年の1984年、映画「ブレイクダンス」(Breakin’)で、1983年(※10)から1991年までマイケル・ジャクソンのソロパートのアドバイザー(パーソナルポッピングインストラクター)を務めていたブガルー・シュリンプ(Boogaloo Shrimp)(※11)が、後方へスライドする際に「歩幅を大きく取りながらバックスライドする表現」を披露したことにより2回目の「基準」が更新されます。

※10:モータウン25でマイケル・ジャクソンがムーンウォーク(バックスライド)を初披露したあとの1983年。

※11:マイケル・ジャクソンがムーンウォーク(バックスライド)を自分の表現として確立していく過程において影響を受けた2人のレジェンドのうちのもう一人のレジェンド。1983年から1991年までマイケルのソロパートのアドバイザー(パーソナルポッピングインストラクター)として、1984年のジャクソンズヴィクトリーツアー以降のBillie Jean終盤の間奏部分のダンスパートをはじめ、ムーンウォーク(バックスライド)を含む一連のパフォーマンスを完成度の高いレベルまで引き上げる仕事にたずさわった。

3回目の「基準」の更新

このブガルー・シュリンプのバックスライドに影響を受けたマイケル・ジャクソンは「歩幅を大きく取りながらバックスライドする表現」を採用し、1984年のジャクソンズヴィクトリーツアーではムーンウォーク(バックスライド)の「歩幅」、「歩数」、「前傾姿勢の角度」、「つま先を立てる角度」、「バックスライドスピード」の改良をおこなったことによって3回目の「基準」が更新されます。

4回目の「基準」の更新

ソロとしてはじめてのワールドツアーとなる1987年のバッドツアーでは、ジャクソンズヴィクトリーツアーの改良点に「首の動き」を加えてムーンウォーク(バックスライド)を全面的にブラッシュアップし、その成果を披露したことによって4回目の「基準」が更新されます。

5回目の「基準」の更新

そして2回目のワールドツアーの1992年のデンジャラスツアーでは「歩幅」と「前傾姿勢の角度」を改良したことによって5回目の「基準」が更新されます。

またこのデンジャラスツアーで、1984年のジャクソンズヴィクトリーツアー以降採用してきた「歩幅を大きく取りながらバックスライドする表現」と「スピード感を重視したバックスライドの演出」によるムーンウォーク(バックスライド)は一つの完成形に到達します。

6回目の「基準」の更新

最後のワールドツアーの1996年のヒストリーツアーでは、1984年のジャクソンズヴィクトリーツアー以降採用してきた「歩幅を大きく取りながらバックスライドする表現」と「スピード感を重視したバックスライドの演出」を1983年のモータウン25と同程度に戻して原点回帰をおこない、自身のムーンウォーク(バックスライド)の表現コンセプトである「月の上を歩いているかのように後ろと前へ同時に歩いていくムーンウォーク」、すなわち「前に進んでいるようで後ろへ進んでいくバックスライド」を完成したことによって、6回目の「基準」が更新されます。

いまの状況

このように、ムーンウォーク(バックスライド)は1978年から1996年の18年間で少なくとも6回の「基準」の更新がおこなわれており、最後の更新の1996年以降、数十年が経過したいまでも、この「基準」がムーンウォーク(バックスライド)の「絶対的基準」のようにあつかわれている「暫定的基準」となっている状況です。

誰がマイケルを「神様」としてあつかっているのか

ここで私たちが改めて認識しなければならないことは、誰がマイケル・ジャクソンを「誰も乗り越えることのできないムーンウォーク(バックスライド)の神様」としてあつかっているのかということです。

それはマイケル・ジャクソン本人が望んでいるわけでもなんでもなく、私たち自身がそのようにしているだけなのです。

なぜなら、私たちは何か凄いものを見せつけられてしまうと、それにひれ伏し、それを「絶対的基準」として位置づけ、その道の「絶対的価値観」としてしまうからです。

技術のクオリティーの「絶対的基準」の存在

どの分野でもそうですが、ストリートダンスの世界にも、いわゆる「上手い」と言われている人がいます。

この「上手い」と言われている人は、なぜ「上手い」と言われているのでしょうか。

それは、ダンスの技術のクオリティーが一定基準以上である、とまわりから評価されているからです。

一方、これとは反対に、いわゆる「下手」と言われている人がいます。

この「下手」と言われている人は、なぜ「下手」と言われているのでしょうか。

それは、ダンスの技術のクオリティーが一定基準以下である、とまわりから評価されているからです。

つまりここでわかることは、ストリートダンスの世界には暗黙の了解による技術のクオリティーの「絶対的基準」が存在し、それが上手い・下手を評価する「絶対的価値観」となっている、ということです。

これがバックスライドにもストレートに当てはまっているのがいまの状況です。

つまり、「ムーンウォーク」といえばほとんどの人はマイケル・ジャクソンがバックスライドしているムーンウォークを連想し、マイケル・ジャクソンのムーンウォーク(バックスライド)がバックスライドの「絶対的基準」である、という「暗黙の了解による技術のクオリティーの絶対的基準」の存在です。

「絶対的基準」の影響力

この「絶対的基準」の影響力は相当なもので、バックスライドを表現する表現者、それを見るオーディエンス、そしてバックスライドを学ぶ初心者、それぞれの意識の中に根深く浸透しているのです。

「絶対的基準」の影響力①:表現者

バックスライドを表現する表現者においては、表現者がマイケル・ジャクソンのムーンウォーク(バックスライド)に心酔してしまうと、マイケルのムーンウォーク(バックスライド)が「絶対的基準」となってしまいます。

そうなると、いつの間にか「絶対的基準」であるマイケル・ジャクソンのムーンウォーク(バックスライド)を完全コピーし完全再現することがクリエイティブを追求する目標であると勘違いしてしまうようになり、その結果、その基準に「近づこう」という思考はあっても、「超えよう」という思考は持たなくなってしまうのです。

「絶対的基準」の影響力②:オーディエンス

バックスライドを見るオーディエンスにおいては、オーディエンスがバックスライドを見る際におこなう「評価方法」に顕著にあらわれています。

その評価方法とは、表現者の演じるバックスライドを見る際に、かならず「マイケル・ジャクソンのムーンウォーク像」というフィルターと「表現者のバックスライド」を頭の中で重ねて比較することによって評価する方法です。

この評価方法によってオーディエンスは「マイケル・ジャクソンのムーンウォーク像」のフィルターに限りなく重なるバックスライドに対しては「上手い」と評価し、ずれていると容赦なく「下手」と評価するのです。

「絶対的基準」の影響力③:初心者

バックスライドを学ぶ多くの初心者においては、まわりのこのような状況にしたがい、マイケル・ジャクソンのムーンウォーク(バックスライド)を何の疑いもなく「絶対的基準」としてしまいます。

そして、多くの初心者がかならずと言っていいほどやってしまうのが、マイケル・ジャクソンのムーンウォーク(バックスライド)を完全コピーし、マイケルのムーンウォーク(バックスライド)へできるだけ近づけて再現できることを目標として練習することです。

なぜなら、前述した「暗黙の了解による技術のクオリティーの絶対的基準」に沿うように練習することによって技術のクオリティーが一定基準以上になれば、まわりから「上手い」と評価される可能性が高くなるからです。

そして必然的に、その「絶対的基準」のようにあつかわれている「暫定的基準」へ「近づこう」という思考はあっても「超えよう」という思考は持たなくなってしまうのです。

マイケルのムーンウォークをめぐる「勘違い」と「思い込み」とは

このように見てくるとわかるように、私たちはいままでずっとマイケル・ジャクソンのムーンウォーク(バックスライド)をめぐる「勘違い」と「思い込み」の渦中にいて気づいていなかったのです。

つまり、表現者もオーディエンスも初心者も、マイケル・ジャクソンの洗練されたムーンウォーク(バックスライド)を前に誰もがひれ伏し、それがバックスライドの「暫定的基準」でしかないにもかかわらず「絶対的基準」であると勘違いして、マイケルのムーンウォーク(バックスライド)に限りなく近づけた表現が「上手い」の「絶対的価値観」であると思い込んでいたのです。

そして必然的に、この「絶対的価値観」の頂点に君臨するマイケル・ジャクソンが「誰も乗り越えることのできないムーンウォーク(バックスライド)の神様」としてあつかわれるようになった、というのが現在の状況なのです。

「私たちが真っ先に取り組むべきこと」とは

私たちはマイケル・ジャクソンのムーンウォーク(バックスライド)をめぐるこの「勘違い」と「思い込み」からそろそろ目覚めるべき時が来ています。

そして目覚めた私たちが真っ先に取り組むべきことは、「マイケル・ジャクソンのムーンウォーク(バックスライド)を乗り越えること」です。

決してマイケル・ジャクソンのムーンウォーク(バックスライド)を完全コピーし完全再現することでも、「マイケルのムーンウォーク像」のフィルターと「表現者のバックスライド」を頭の中で重ねて比較することによって評価することでもありません。

マイケル・ジャクソンは未来永劫、誰も乗り越えることのできないムーンウォーク(バックスライド)の神様ではなく、乗り越えることのできるムーンウォーク(バックスライド)のレジェンドなのです。

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次回について

私たちはいままでずっとマイケル・ジャクソンのムーンウォーク(バックスライド)をめぐる「勘違い」と「思い込み」の渦中にいたことによって、バックスライドの習得においても「あること」に気づいていませんでした。

それは、バックスライドの習得で「本当に目指すべきもの」は完全コピーではなく他にあるということです。

それではその「本当に目指すべきもの」とは一体何なのでしょうか。

それは「自分の表現としてのバックスライド」です。

第3回|「自分の表現」の方向性

そこで次回は、マイケル・ジャクソンのムーンウォーク(バックスライド)の完全コピーを目指さない方がよい理由にスポットを当て、その理由を明らかにした上で、マイケルがどのようにしてムーンウォーク(バックスライド)を「自分の表現」として確立したのか、そしてそこから私たちがバックスライドを「自分の表現」として提示するための方向性とは何かについて詳しく解説していきたいと思います。

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それではまた次のコンテンツでお会いしましょう。

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