ムーンウォークの靴(シューズ)|表現の観点から解説する3つの基準

ムーンウォーク(バックスライド)に適した靴(シューズ)選びの基準について、「表現の観点」から解説していきます。
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ムーンウォークの靴(シューズ)|表現の観点から解説する3つの基準

「ムーンウォーク」の名称で知られている「バックスライド」は、1970年代後期よりウエストコースト(西海岸)のストリートダンサーから広まっていったスタイルです。

マイケル・ジャクソンが1983年のモータウン25(※1)のBillie Jeanで「ムーンウォーク」として披露したことによって一般に広く知られるようになりました。

今回は「ムーンウォークの靴」にスポットを当て、バックスライドに適した靴(シューズ)選びの基準を「表現の観点」からとらえ、その基準がバックスライドの表現とどのように関係しているのかについて解説していきたいと思います。

※1:マイケル・ジャクソンがジャクソン5時代に所属していたレコードレーベル「モータウン」の設立25周年を記念して開催された音楽の祭典。そのハイライトは1983年5月16日に全米でTV放送された。祭典の正式名称は「Motown25: Yesterday, Today, Forever」(モータウン25:昨日、今日、そして永遠に)。この祭典がマイケルにとってムーンウォーク(バックスライド)初披露の場となった。

バックスライドに適した靴(シューズ)の基準

まずはじめに、本解説が考える「バックスライドに適した靴(シューズ)選びの基準」とは次の3点です。

1. つま先

2. 足首

3. 靴底

1. つま先

バックスライドに適した靴(シューズ)選びの基準の1つ目は「つま先」です。

なぜなら「つま先」は、バックスライドを表現する際の「つま先の使い方」と深く関わっているからです。

バックスライドの「つま先の使い方」は、タイプ別に分類するとおもに次の2つのタイプがあります。

1. つま先の指を立てたバックスライド

2. つま先の指を曲げたバックスライド

この2つの表現の「つま先の使い方」を図で示すと次のとおりです。

1. つま先の指を立てたバックスライド

1つ目のタイプは「つま先の指を立てたバックスライド」です。

このタイプは「つま先を立てた方の足」のつま先の指を立てることによって、体重をつま先の指の先端の「点」で支えた状態からバックスライドします。

「つま先の指を立てたバックスライド」は、体重をつま先の指の先端の「点」で支えた状態からバックスライドするため、体重を支える面積がせまく、つま先の指の先端にかかる体重の負荷が大きくなることから、「つま先の指を曲げたバックスライドの表現」よりも難易度が高いという「デメリット」があります。

しかし難易度が高い反面、バックスライドの表現が本来持つ「滑らかさ」とつま先の指を立てることによる「つま先のエッジ」とのコントラストが強調されて、キレのよいバックスライドの表現となる「メリット」も持っています。

2. つま先の指を曲げたバックスライド

2つ目のタイプは「つま先の指を曲げたバックスライド」です。

このタイプは「つま先を立てた方の足」のつま先の指を曲げることによって、体重をつま先の指から付け根にかけての「面」で支えた状態からバックスライドします。

「つま先の指を曲げたバックスライド」は、体重をつま先の指から付け根にかけての「面」で支えた状態からバックスライドするため、体重を支える面積が広く、つま先の指の先端にかかる体重の負荷が軽減することから、「つま先の指を立てたバックスライド」よりも難易度が低いという「メリット」があります。

しかし難易度が低い反面、つま先の指が床に対して明らかに曲がっていることから、バックスライドの表現が本来持つ「滑らかさ」とつま先の指を曲げることによる「つま先のやわらかさ」との相乗作用によって、どうしてもマイルドなバックスライドの表現となってしまう「デメリット」も持っています。

マイケルの「つま先の使い方」

この2つの「つま先の使い方」のうち、マイケル・ジャクソンがムーンウォーク(バックスライド)で採用している表現は、1の「つま先の指を立てたバックスライド」です。

靴(シューズ)選びの基準①

以上を踏まえ、「つま先」はバックスライドを表現する際の「つま先の使い方」と深く関わっているため、わずか数センチ程度の「つま先の使い方」であってもクオリティーの高いバックスライドを表現するためには、1の「つま先の指を立てたバックスライド」のように、つま先の指まで意識を行き届かせ、つま先の指を立ててバックスライドすることが重要である、というのが本解説の見解です。

つまりバックスライドに適した靴(シューズ)選びとして本解説では、自分のつま先と靴(シューズ)の中のつま先部分のカーブの形がフィットし、つま先へ体重をかけてもなるべくつま先に負担がかかりにくいものを選択することが望ましいと考えます。

2. 足首

バックスライドに適した靴(シューズ)選びの基準の2つ目は「足首」です。

なぜなら「足首」は、バックスライドを表現する際の「つま先を立てる角度」と深く関わっているからです。

「つま先を立てる角度」の使い方には、表現者によっておもに次のAとBの2つのタイプがあります。

A. 「つま先の角度固定」タイプ

B. 「つま先の2段角度」タイプ

A. 「つま先の角度固定」タイプ

1つ目は「つま先の角度固定」タイプです。

このタイプは、「つま先を立てた方の足」の「つま先を立てる角度」を自分の可動範囲の半分以上の高さまで上げて固定し、その状態から「つま先を立てていない方の足」をバックスライドします。

B. 「つま先の2段角度」タイプ

2つ目は「つま先の2段角度」タイプです。

このタイプは、「つま先を立てた方の足」の「つま先を立てる角度」を自分の可動範囲の半分まで上げ、「つま先を立てていない方の足」をバックスライドしている時に「つま先を立てる角度」をさらに最高角度の90°近くまで上げます。

マイケルはどのタイプを採用しているのか

これを踏まえ、マイケル・ジャクソンはどのタイプを採用しているのかというと、「AとBの両方」タイプです。

具体的には、左足をAの「つま先の角度固定」タイプ、右足をBの「つま先の2段角度」タイプというように、「つま先を立てる角度」の使い方を左右別々に表現しています。

参考:私の場合

参考までに私の場合、「つま先を立てる角度」の使い方は、両足へ「つま先の角度固定」タイプを採用しています。

バックスライド時に「つま先を立てた方の足」の「つま先を立てる角度」を自分の可動範囲の半分以上の高さまで上げて固定し、その状態から「つま先を立てていない方の足」をバックスライドしている時もそれ以上角度を上げずに固定するという使い方です。

靴(シューズ)選びの基準②

以上を踏まえ、Aの「つま先の角度固定」タイプ、Bの「つま先の2段角度」タイプ、マイケル・ジャクソンの「AとBの両方」タイプ、これらどのタイプを採用するにしても、「足首」はバックスライドを表現する際の「つま先を立てる角度」と深く関わっているため、足首の稼働範囲がせまくなると「つま先を立てる角度」が制限されてしまうことにつながる、というのが本解説の見解です。

つまりバックスライドに適した靴(シューズ)選びとして本解説では、ハイカットの靴(シューズ)は足首の可動範囲をせまくしてしまう傾向があるため、ローカットからミドルカット(ミッドカット)までのものを選択することが望ましいと考えます。

3. 靴底

バックスライドに適した靴(シューズ)選びの基準の3つ目は「靴底」です。

なぜなら「靴底」は、バックスライドを表現する際の「滑らかさ」と深く関わっているからです。

ここでいうバックスライドを表現する際の「滑らかさ」とは、かかとからつま先にかけて後方へ交互にスライドしながら移動していく際に、「靴底と床との間で生じる摩擦による引っかかりが少なくスムーズにスライドしやすいこと」を指します。

靴(シューズ)は本来、滑りにくいように作られているものですが、バックスライドに適した靴(シューズ)選びの観点からすると、床との摩擦抵抗が極力少なく滑りやすいものが適しています。

その点において革靴は、靴底の摩擦抵抗が少なく理にかなっていると言えるでしょう。

参考までにマイケル・ジャクソンは、靴底の摩擦抵抗を限りなくなくすために、かかと部分の滑り止め素材をはがし、より滑りやすい革素材へカスタマイズして使用していました。

靴(シューズ)選びの基準③

以上を踏まえ、「靴底」はバックスライドを表現する際の「滑らかさ」と深く関わっているため、床との摩擦抵抗が極力少なく滑りやすいものが適している、というのが本解説の見解です。

つまりバックスライドに適した靴(シューズ)選びとして本解説では、溝の「すき間」の配列がシンプルで、なおかつ溝の「深さ」の凹凸(おうとつ)が極力少ないものを選択することが望ましいと考えます。

また、補足として、靴底は練習の過程で徐々にすり減っていくことでムーンウォーク(バックスライド)に適した「滑りやすい靴底」となっていきますので、「滑り」が足りない場合は練習でカバーしていきましょう。

「靴(シューズ)選びの基準」のまとめ

ここで「バックスライドに適した靴(シューズ)選びの基準」についてまとめると次のとおりです。

1. つま先

自分のつま先と靴(シューズ)の中のつま先部分のカーブの形がフィットし、つま先へ体重をかけてもなるべくつま先に負担がかかりにくいものを選択する。

2. 足首

ローカットからミドルカット(ミッドカット)までのものを選択する。

3. 靴底

溝の「すき間」の配列がシンプルで、なおかつ溝の「深さ」の凹凸(おうとつ)が極力少ないものを選択する。

一足選ぶとしたらどれがよいか

このように見てくると、バックスライドに適した靴(シューズ)は「どこにでもある一般に入手可能なもの」であることがわかります。

上記で示した基準によって、靴(シューズ)選びの際にある程度の選択肢が絞れると思いますが、それでも選べずに悩んでしまった場合は、NIKEの「BLAZER」(ブレーザー)を選択するとよいでしょう。

なぜならこの靴(シューズ)は、1984年公開の映画「ブレイクダンス」(Breakin’)でブガルー・シュリンプ(Boogaloo Shrimp)(※2)がバックスライドを披露した時に履いていたモデルだからです。

この靴(シューズ)を履くことによってブガルー・シュリンプのようなキレのあるバックスライドができるようになるという保証はどこにもありませんが、一つ言えることは、バックスライドが上達できない原因をこの靴(シューズ)のせいにはできなくなるというメリットがあることです。

※2:マイケル・ジャクソンがムーンウォーク(バックスライド)を自分の表現として確立していく過程において影響を受けた2人のレジェンドのうちの一人。1983年から1991年までマイケルのソロパートのアドバイザー(パーソナルポッピングインストラクター)として、1984年のジャクソンズヴィクトリーツアー以降のBillie Jean終盤の間奏部分のダンスパートをはじめ、ムーンウォーク(バックスライド)を含む一連のパフォーマンスを完成度の高いレベルまで引き上げる仕事にたずさわった。なお、マイケルがムーンウォーク(バックスライド)を自分の表現として確立していく過程において影響を受けた2人のレジェンドのうちのもう一人のレジェンドとは、ジェフリー・ダニエル(Jeffrey Daniel)のこと。

大切なこと

マイケル・ジャクソンはおもにフローシャイム(Florsheim)のComoとComo Imperialのローファーを自身のダンスパフォーマンスの靴として選択しましたが(※3)、仮にマイケルが普段私たちが履いているような靴(シューズ)でムーンウォーク(バックスライド)をおこなったとしても、洗練された「マイケルのムーンウォーク(バックスライド)」になり得たと思います。

反対に、私たちがマイケル・ジャクソンの使用していたものと同じフローシャイムのローファーを履いてバックスライドをおこなったとしても、マイケルを凌駕するようなパフォーマンスができるのかというと、できない可能性の方が高いと言えるでしょう。

つまり大切なことは、靴(シューズ)が表現者の実力を引き出してくれるのではなく、表現者が自身の実力を上げることによって靴(シューズ)の実力を引き出してあげる、ということです。

※3:1983年公開のショートフィルム「スリラー」ではジーエイチバス(G.H.BASS)のWeejunsを着用。

それではまた次のコンテンツでお会いしましょう。

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