マイケルのムーンウォークの完全コピーを目指さない方がよい理由

マイケル・ジャクソンのムーンウォーク(バックスライド)を乗り越えるための考察を全5回にわたり解説していくシリーズの第3回目です。
マイケル・ジャクソンのムーンウォークを乗り越える方法
マイケル・ジャクソンのムーンウォークを乗り越えるための考察と方法を全5回シリーズで解説します。
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マイケルのムーンウォークの完全コピーを目指さない方がよい理由

私たちはいままでずっとマイケル・ジャクソンのムーンウォーク(バックスライド)をめぐる「勘違い」と「思い込み」の渦中にいたことによって、バックスライドの習得においても「あること」に気づいていませんでした。

それは、バックスライドの習得で「本当に目指すべきもの」は完全コピーではなく他にあるということです。

それではその「本当に目指すべきもの」とは一体何なのでしょうか。

それは「自分の表現としてのバックスライド」です。

そこで今回は、マイケル・ジャクソンのムーンウォーク(バックスライド)の完全コピーを目指さない方がよい理由にスポットを当て、その理由を明らかにした上で、マイケルがどのようにしてムーンウォーク(バックスライド)を「自分の表現」として確立したのか、そしてそこから私たちがバックスライドを「自分の表現」として提示するための方向性とは何かについて詳しく解説していきたいと思います。

なぜ完全コピーを目指さない方がよいのか

そもそもなぜマイケル・ジャクソンのムーンウォーク(バックスライド)の完全コピーを目指さない方がよいのでしょうか。

マイケルの完全コピーを目指したくなる理由

マイケル・ジャクソンのムーンウォーク(バックスライド)は、表現として非常に洗練されており、完成度も高く、ムーンウォーク(バックスライド)を学ぶ上で最高の先生となってくれます。

しかし、学ぶ上では最高の先生となってくれるマイケル・ジャクソンのムーンウォーク(バックスライド)ですが、学べば学ぶほど、マイケルと自分との大きなレベルのギャップに絶望感を感じてしまうのも事実です。

この時点において、中にはマイケル・ジャクソンのムーンウォーク(バックスライド)に心酔し、マイケルのムーンウォーク(バックスライド)の完全コピーの追求へ方向転換してしまう人がいますが、その気持ちもわかるような気がします。

なぜなら、それだけマイケル・ジャクソンのムーンウォーク(バックスライド)にはいまでも人の心を惹きつけるだけの魅力があるからです。

マイケルの完全コピーは「二番煎じ」

このマイケル・ジャクソンの完成度の高いムーンウォーク(バックスライド)を完全コピーするにはそれなりに時間と労力がかかります。

そのためマイケル・ジャクソンをトレースして完全コピーすることには、それ相応の価値はあると思います。

しかしながら、それはあくまでマイケル・ジャクソンのムーンウォーク(バックスライド)を「学ぶ」という意味においてです。

もしあなたがマイケル・ジャクソンのムーンウォーク(バックスライド)を保存し後世へ伝える伝統芸能関係の人なのであれば、本解説でもマイケルのムーンウォーク(バックスライド)の完全コピーを目指すことを止めはしないでしょう。

しかし、もしあなたが伝統芸能関係とまったく関係のない人なのであれば、マイケル・ジャクソンのムーンウォーク(バックスライド)の完全コピーを目指さない方がよいでしょう。

なぜならクリエイティブの観点からすると、マイケル・ジャクソンのムーンウォーク(バックスライド)の完全コピーはマイケルの「二番煎じ」であり、表現者として「新しい表現」、「新しい価値観」の可能性を何も提示していないからです。

完全コピーではない「本当に目指すべきもの」とは

私たちはいままでずっとマイケル・ジャクソンのムーンウォーク(バックスライド)をめぐる「勘違い」と「思い込み」の渦中にいたことによって、バックスライドの習得においても「絶対的基準」であるマイケルのムーンウォーク(バックスライド)の完全コピーを目指すことが当たり前の価値観の中に数十年もの長い間い続けていたため「あること」に気づいていませんでした。

それは、バックスライドの習得で「本当に目指すべきもの」は完全コピーではなく他にあるということです。

それではその「本当に目指すべきもの」とは一体何なのでしょうか。

それは「自分の表現としてのバックスライド」です。

もう一つのマイケルの「二番煎じ」

マイケル・ジャクソンのムーンウォーク(バックスライド)の完全コピーはNG、という条件のもとで、「自分の表現としてのバックスライドを提示する」ことを考えた場合、多くの人が考えることは「マイケルよりも精度を高めたマイケルを超えるムーンウォーク(バックスライド)」です。

つまり、マイケル・ジャクソンのムーンウォーク(バックスライド)の完全コピーをベースに、「技術」でマイケルよりも精度の高いバックスライドを提示することです。

しかし、マイケル・ジャクソンがたどった道は「マイケル専用の道」であり、マイケル自身がその道の延長線上に到達することによって意味があります。

そのため、他の人がマイケル・ジャクソンと同じ道をなぞり、マイケルが打ち立てたムーンウォーク(バックスライド)の到達点までをトレースして完全コピーし、その地点から先の延長線上に到達してマイケルよりも技術の精度を高めたバックスライドを提示しても、結果的には完全コピーと同様にマイケルの「二番煎じ」でしかないのです。

何をもって「自分の表現」であると言えるのか

それでは「自分の表現としてのバックスライド」を提示するためには何をもって「自分の表現」であると言えるのでしょうか。

3つの「表現」のタイプ

本解説で取り上げる「表現」とは、気心知れた仲間内だけに通じる表現や、個人的趣味としての表現などを除外した、対外的に「自分の表現」として提示するレベルの「表現」のことです。

これを踏まえ、この「表現」をタイプ別に分類すると次の3つのタイプとなり、これら3つ「表現」のうちどれか1つを提示できれば「自分の表現」であると言えます。

1. 完全新規の表現

2. 時代のトレンドとなる表現

3. 独創的に新しく展開した表現

1. 完全新規の表現

1つ目のタイプは、「完全新規の表現」です。

このタイプは、提示した表現がその分野の歴史において、いままでに見たこと、体験したことがない「まったく新しい表現」が該当します。

そしてこのまったく新しいダンスのジャンルやスタイルを創り出した表現者のことを「オリジネーター」(考案者)と呼びます。

2. 時代のトレンドとなる表現

2つ目のタイプは、「時代のトレンドとなる表現」です。

このタイプは1の「完全新規の表現」の流派に属する表現で、オリジネーターが創り出した完全新規のダンスのジャンルやスタイルをいち早く取り入れて「時代の最先端の表現」として一般に広め、時代のトレンドとなる表現のことです。

そしてこの「時代のトレンドとなる表現」を提示した表現者のことを「パイオニア」(先駆者)と呼びます。

3. 独創的に新しく展開した表現

3つ目のタイプは、「独創的に新しく展開した表現」です。

この表現は1の「完全新規の表現」の流派に属さず独立して新しく展開した表現で、オリジネーターが創り出した完全新規のダンスのジャンルやスタイルにインスピレーションを受けて、それを自身のクリエイティビティ(創造性)によって独創的に新しく展開した表現のことです。

そしてこの「独創的に新しく展開した表現」を提示した表現者のことを「革新者」(イノベーター)と呼びます。

マイケルがムーンウォークを確立した背景とは

これを踏まえ、マイケル・ジャクソンはどのようにしてムーンウォーク(バックスライド)を「自分の表現」として確立したのでしょうか。

マイケルも「乗り越えるべき課題」に直面していた

本題に入る前に、私たちはマイケル・ジャクソンのムーンウォーク(バックスライド)についてあらかじめ認識しておくべきことがあります。

それは、マイケル・ジャクソンはムーンウォークの表現の根幹となる、かかとからつま先にかけて後方へ交互にスライドしながら移動していくバックスライドの表現そのものを0から創り出していない、ということです。

バックスライドの表現そのものを考えたオリジネーターが誰なのかは現在でも明らかとはなっていませんが、マイケル・ジャクソンがムーンウォーク(バックスライド)を初披露した1983年よりももっと前から存在していたことは確かです。

確認できる情報として、タップダンスの分野でビル・ベイリー(Bill Bailey)が1943年公開の映画「Cabin In The Sky」でバックスライドを披露しているのが一番古いとされています(※参照:YouTube)。

また、ストリートダンスの分野では、1978年11月に放送された音楽番組「Midnight Special」で、エレクトリックブガルーズ(Electric Boogaloos)(※1)のクリーピン・シッド(Creepin Sid)(※2)が全米のTV放送ではじめてバックスライドを披露しています。

つまり、いまでこそ「ムーンウォーク」がマイケル・ジャクソンの代名詞となっていますが、当時のマイケルには私たちがいま直面している課題と同様にバックスライドをすでに表現しているレジェンドが存在し、この状況からどのようにしてレジェンドを乗り越え、バックスライドを「自分の表現」として確立していけばよいのか、というように、マイケルも「乗り越えるべき課題」に直面していたのです。

※1:ブガルー・サム(Boogaloo Sam)(※3)によって1977年に結成された伝説的ダンスクルー。曲のビートに反応してポーズを形成した直後に身体の各部位を同時に弾いて表現する「ポッピング」(Popping)と、腰・ひざ・頭などの身体のあらゆる部分のロールを自在に使いこなすことによって流動的に表現する「ブガルー」(Boogaloo)の2大ダンススタイルを世に送り出した。なお、結成時の1977年は、エレクトリックブガルーロッカーズ(Electric Boogaloo Lockers)の名称でカリフォルニア州フレズノを本拠地としていたが、1978年にカリフォルニア州ロングビーチへ移転後「エレクトリックブガルーズ」へと改名した。

※2:ストリートダンスの歴史において1978年に全米のTV放送ではじめてバックスライドを披露したレジェンド。代表的な表現には、前述のかかとからつま先にかけて後方へ交互にスライドしながら移動していく「バックスライド」や、バックスライドの逆バージョンとして、つま先からかかとにかけて前方へ交互にスライドしながら移動していく「フロントスライド」、左右の足を横方向へ交互にスライドしながら移動していく「サイドスライド」、そして自身のダンサーネームの由来となっている、その場にとどまりながらゆっくりとバックスライドしているようにみせる「クリーピング」がある。なお、エレクトリックブガルーズバージョンのバックスライドはメンバーのティッキン・ウィル(Tickin’ Will)が1975年に考案し、後年その動きを見て学んだクリーピン・シッドが「より滑らかで、より長い距離のバックスライド」の表現へと改良した。

※3:エレクトリックブガルーズのリーダー。曲のビートに反応してポーズを形成した直後に身体の各部位を同時に弾いて表現する「ポッピング」と、腰・ひざ・頭などの身体のあらゆる部分のロールを自在に使いこなすことによって流動的に表現する「ブガルー」を創り出したオリジネーター(考案者)。マイケル・ジャクソンの作品にはショートフィルム「ゴースト」に出演した。

マイケルはどのようにして乗り越えたのか

それではマイケル・ジャクソンは、当時直面していた「乗り越えるべき課題」をどのようにして乗り越え、ムーンウォーク(バックスライド)を「自分の表現」として確立していったのでしょうか。

マイケル・ジャクソンは、当時ストリートダンサーの間で流行りつつあった「バックスライド」にいち早く着目し、1983年のモータウン25(※4)での初披露によってバックスライド(ムーンウォーク)が一般に広く知られるようになりました。

このことでマイケル・ジャクソンは、2の「時代のトレンドとなる表現」のパイオニア(先駆者)の地位を確立しました。

またマイケル・ジャクソンは、かかとからつま先にかけて後方へ交互にスライドしながら移動していく表現である「バックスライド」を自身のクリエイティビティ(創造性)によって、月の上を歩いているかのように後ろと前へ同時に歩いていく「ムーンウォーク」である、と「解釈」しました。

そして1983年のモータウン25での初披露で、既存のバックスライドにも既存のムーンウォーク(※5)にも属さない「新しい価値観」として、マイケル・ジャクソンが「解釈」するマイケルバージョンのバックスライド、すなわち、月の上を歩いているかのように後ろと前へ同時に歩いていく「ムーンウォーク」を提示し、それを生涯にわたってやり続けたことによって、3の「独創的に新しく展開した表現」のイノベーター(革新者)の地位を確立しました。

このことからマイケル・ジャクソンは、2の「時代のトレンドとなる表現」のパイオニア(先駆者)の地位を確立したと共に、3の「独創的に新しく展開した表現」のイノベーター(革新者)の地位も確立したムーンウォーク(バックスライド)のレジェンドである、と言えます。

※4:マイケル・ジャクソンがジャクソン5時代に所属していたレコードレーベル「モータウン」の設立25周年を記念して開催された音楽の祭典。そのハイライトは1983年5月16日に全米でTV放送された。祭典の正式名称は「Motown25: Yesterday, Today, Forever」(モータウン25:昨日、今日、そして永遠に)。

※5:オリジナルムーンウォーク(Original Moonwalk)のこと。エレクトリックブガルーズのメンバーのティッキン・ウィル(Tickin’ Will)が1975年に考案し、リーダーのブガルー・サムによって発展していったスタイル。ひざをやわらかく使いながら円を描くように体重移動していく表現を利用して、月の上を歩いているかのようにゆっくりと歩いてみせる表現に特徴がある。

私たちが進むべき道とは

以上をまとめると、もしあなたがマイケル・ジャクソンのムーンウォーク(バックスライド)を保存し後世へ伝える伝統芸能関係とまったく関係のない人なのであれば、目指すべきは「完全コピー」でも「マイケルよりも精度を高めたマイケルを超えるムーンウォーク(バックスライド)」でもなく、「自分の表現としてのバックスライド」です。

そして、対外的に「自分の表現」として提示するレベルの「表現」としてあげた、1の「完全新規の表現」、2の「時代のトレンドとなる表現」、3の「独創的に新しく展開した表現」の3つのタイプのうち、どれか1つをバックスライドの「自分の表現」として提示できれば、現在のバックスライドの「絶対的基準」となっているマイケル・ジャクソンのムーンウォーク(バックスライド)を乗り越えるための第一歩が踏み出せたと言えるでしょう。

しかしながらバックスライドの場合、「バックスライド」という完全新規の表現がすでに存在し(※1. 完全新規の表現)、1983年のマイケル・ジャクソンのムーンウォーク(バックスライド)によって一般に広く知られるようになった時代をすでに経験しています(※2. 時代のトレンドとなる表現)。

そのためバックスライドを「自分の表現」として提示するために私たちが進むべき道は、必然的に3の「独創的に新しく展開した表現」となるのです。

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次回について

ダンスの歴史でマイケル・ジャクソンが残した功績の一つは、当時ストリートダンサーの間で流行りつつあった「バックスライド」にいち早く着目し、「ムーンウォーク」としての価値を最大限に引き上げたことです。

マイケル・ジャクソンがムーンウォーク(バックスライド)を初披露した1983年から数十年が経過した現在においても、私たちはその影響下にあると言っても過言ではありません。

なぜなら「ムーンウォーク」の名称が依然としてマイケル・ジャクソンのゆるぎない代名詞となっており、マイケルのムーンウォーク(バックスライド)を誰も超えられないでいるからです。

これまでマイケル・ジャクソンのムーンウォーク(バックスライド)を乗り越えるために先人がおこなってきたことは、マイケルのムーンウォーク(バックスライド)をそのまま完全コピーし、その「技術」に対して追いつき追い越せということでした。

しかしこのやり方には、たとえマイケル・ジャクソンよりも精度の高いムーンウォーク(バックスライド)を身につけて「技術」で追い抜いたとしても、結局はマイケルがたどった道をそのままなぞっただけであり、マイケルの「二番煎じ」にしかならず、乗り越えたことにはならないという限界がありました。

私たちはマイケル・ジャクソンのムーンウォーク(バックスライド)を「技術の観点」からではなく「クリエイティブの観点」からとらえてマイケルのムーンウォーク(バックスライド)の「本質」を学び取り、乗り越えるべきだったのです。

第4回|突破口

そこで次回は、マイケル・ジャクソンのムーンウォーク(バックスライド)を乗り越えるための「突破口」にスポットを当て、その「突破口」がどこにあるのかについて詳しく解説していきたいと思います。

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それではまた次のコンテンツでお会いしましょう。

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