
アニメーションダンスとロボットダンスの決定的な「違い」とは
本解説でも「アニメーションダンス」について簡単に説明する際は「ロボットのような動きを取り入れたダンス」と一言で表記することがありますが、クリエイティブの観点からすると「アニメーションダンス」と「ロボットダンス」には表現の骨格となる「表現コンセプト」とそれを表現するための「ルール」があるため、当然ながらそれぞれの表現には違いがあります。
結論から先に言うと、アニメーションダンスとロボットダンスの違いとは、「ロボットスタイル」を採用しているかそうでないかによって決まります。
つまりアニメーションダンスとロボットダンスの違いを理解するためのキーワードは「ロボットスタイル」であり、「ロボットスタイル」がわかることによって「アニメーションダンス」との違いがわかります。
そこでシリーズ第6回目の今回は「アニメーションダンスとロボットダンスの違い」にスポットを当て、この2つの決定的な「違い」について詳しく解説していきたいと思います。
アニメーションダンスとロボットダンスの違い
まずはじめに「アニメーションダンスとロボットダンスの違い」についてまとめると次のとおりです。
1. アニメーションダンス
ダンスのジャンルの「アニメーション」を専門とするダンスのこと。ダンスの構成の中で「アニメーション」を表現する時は「ロボットスタイル」を採用していない。
2. ロボットダンス
ダンスのジャンルの「ロボット」を専門とするダンスのこと。ダンスの構成の中で「ロボットスタイル」を採用して表現している。
このことからアニメーションダンスとロボットダンスの違いを理解するためのキーワードは「ロボットスタイル」であり、「ロボットスタイル」がわかることによって「アニメーションダンス」との違いがわかります。
ロボットスタイルの系譜
「ロボット」(Robot)は、各部位の可動範囲をおもに①左右(X軸)、②上下(Y軸)、③前後(Z軸)、④(各軸の)回転の4つに制限し、1モーションにつき1部位の機械的動作を基本原則として表現するスタイルです。
このスタイルのルーツは「ロボット」という言葉がまだ存在していなかった1910年代後期の「マネキンダンス」にあります。
その後1920年にチェコの劇作家カレル・チャペック(Karel Čapek)によって「ロボット」という言葉が創られ、世界中に「ロボット」という言葉が浸透していくにつれて「マネキンダンス」は「ロボット」と呼ばれるようになりました。
それ以降「ロボット」は長い間パントマイムの世界で発展していましたが、1960年代後期よりストリートダンスへ取り入れられます。
これを踏まえ、「ロボット」の表現に特化し、ダンスの構成の中で「ロボット」をメインスタイルとして表現しているダンスが「ロボットダンス」です。
ロボットダンスは当時全米で最先端のストリートダンスを発信していた音楽番組「ソウルトレイン」で1970年代初頭にロボットを踊るストリートダンサーが登場しはじめたことがきっかけとなり広まっていき、1973年の同番組でジャクソン5のヴォーカルだったマイケル・ジャクソンが新曲「Dancing Machine」の間奏部分でロボットダンスを披露したことによって、全米の若い世代がロボットダンスをやりはじめるようになったことから本格的に広まりました(※参照:YouTube)。
ロボットスタイルの表現とは
ロボットスタイルの表現とは、ロボットを「単体」で表現することです。
ロボットを「単体」で表現する時は、別のスタイルを入れずに「ロボットのスタイルそのもの」を表現します。
「ロボットのスタイルそのもの」の表現とは、パントマイムのロバート・シールズ(Robert Shields)が表現するロボットのようにロボットスタイルの表現の「基本原則」を踏まえた「スムーズに動くロボット」の表現のことを指します(※参照:YouTube)。
基本原則
ロボットスタイルの表現の「基本原則」にはおもに次の3つがあります。
01. 4つの可動範囲
各部位の可動範囲をおもに①左右(X軸)、②上下(Y軸)、③前後(Z軸)、④(各軸の)回転の4つに制限する。
02. 1モーションにつき1部位
「1モーションにつき1部位」の機械的動作とする。
03. 「まばたき」を排除
ロボットを演じている間は「まばたき」を排除して「非人間的無機質さ」を演出する。
表現の特徴
このスタイルの「表現の特徴」として、動作の始動・停止の際に生じる機械特有の「ぶれ」を省略し、動作を「スッとはじめてピタッと止める」ことによって「スムーズに動くロボット」を表現する点があげられます。
ポッピンロボット
この「ロボットスタイルの表現」を踏まえ、ロボットへポッピング(Popping)(※1)の「表現の要素」を取り入れてできたスタイルが「ポッピンロボット」(Poppin Robot)です。
前述の「ロボットスタイル」とこの「ポッピンロボット」の2つのスタイルがロボットを表現する主流スタイルと言ってもよいでしょう。
このスタイルの「表現の特徴」として、前述のロボットスタイルの表現の「基本原則」を踏まえた「スムーズに動くロボット」へポッピングの「身体を弾く」という「表現の要素」を取り入れて表現する点があげられます。
具体的には、前述の「ロボットスタイル」が動作の始動・停止の際に生じる機械特有の「ぶれ」を省略しているのに対し、「ポッピンロボット」ではポッピングの「表現の要素」を取り入れることによって、ロボットの動作の始動・停止の際に生じる機械特有の「ぶれ」を表現している点です。
※1:曲のビートに反応してポーズを形成した直後に身体の各部位を同時に弾いて表現するスタイルのこと。エレクトリックブガルーズ(Electric Boogaloos)(※2)のブガルー・サム(Boogaloo Sam)(※3)が1976年に創り出した。
※2:ブガルー・サムによって1977年に結成された伝説的ダンスクルー。曲のビートに反応してポーズを形成した直後に身体の各部位を同時に弾いて表現する「ポッピング」(Popping)と、腰・ひざ・頭などの身体のあらゆる部分のロールを自在に使いこなすことによって流動的に表現する「ブガルー」(Boogaloo)の2大ダンススタイルを世に送り出した。なお、結成時の1977年は、エレクトリックブガルーロッカーズ(Electric Boogaloo Lockers)の名称でカリフォルニア州フレズノを本拠地としていたが、1978年にカリフォルニア州ロングビーチへ移転後「エレクトリックブガルーズ」へと改名した。
※3:エレクトリックブガルーズのリーダー。曲のビートに反応してポーズを形成した直後に身体の各部位を同時に弾いて表現する「ポッピング」と、腰・ひざ・頭などの身体のあらゆる部分のロールを自在に使いこなすことによって流動的に表現する「ブガルー」を創り出したオリジネーター(考案者)。マイケル・ジャクソンの作品にはショートフィルム「ゴースト」に出演した。
参考動画:ロボットの基本
以上を踏まえ、ここまで解説してきた「ロボットスタイル」と「ポッピンロボット」の2つのスタイルで構成したロボットコンビネーションが次の動画です。
アニメーションダンス
これに対し、「アニメーション」の表現に特化し、ダンスの構成の中で「アニメーション」をメインスタイルとして表現しているダンスが「アニメーションダンス」です。
ロボットダンスとの決定的な「違い」として、ダンスの構成の中で「アニメーション」を表現する時は「ロボットスタイル」を採用していない点があげられます。
これはアニメーションダンスのダンスの構成の中で「ロボットスタイル」をまったく採用していないという意味ではなく、表現者の個性として「ロボットスタイル」も取り入れて表現することがあっても、スタイルの「アニメーション」を表現する時は「ロボットスタイル」を採用していない、という意味です。
それではスタイルの「アニメーション」の表現ではいったい何のスタイルを採用しているのか、ということになりますが、それはロボットスタイルの「機械的動作」という「表現の要素」を取り入れてできた「別物のスタイル」を採用しているのです。
これを踏まえ、ロボットスタイルの「表現の要素」を取り入れてできた「アニメーション」にはおもに次の2つの「スタイル」があります。
01. リキッドアニメーションスタイル
02. アニマトロニクススタイル
01. リキッドアニメーションスタイル
「リキッドアニメーションスタイル」はブガルー・シュリンプ(Boogaloo Shrimp)(※4)が創り出したスタイルです。
このスタイルは「流れるように動くロボット」を表現するところに特徴があります。
「流れるように動くロボット」は、「可動範囲の制限を解放したロボットの動き」の要素と、カートゥーンアニメーションの「パラパラ漫画を細かく滑らかに映し出した動き」の要素を組み合わせることによって表現します。
この動画では、おもに「リキッドアニメーションスタイル」を表現しています。
※4:マイケル・ジャクソンが自身の「ムーンウォーク」と「アニメーションダンス」を確立していく過程において影響を受けた2人のレジェンドのうちの一人。「リキッドアニメーションスタイル」のオリジネーター。1983年から1991年までマイケルのソロパートのアドバイザー(パーソナルポッピングインストラクター)として、1984年のジャクソンズヴィクトリーツアー以降のBillie Jean終盤の間奏部分のダンスパートをはじめ、ムーンウォーク(バックスライド)を含む一連のパフォーマンスを完成度の高いレベルまで引き上げる仕事にたずさわった。
02. アニマトロニクススタイル
「アニマトロニクススタイル」はポッピン・タコ(Pop N Taco)(※5)が創り出したスタイルです。
このスタイルはアニマトロニクスの「ひっかかりのあるぶれをともなうメカニカルな動き」を表現するところに特徴があります。
アニマトロニクスの「ひっかかりのあるぶれをともなうメカニカルな動き」は、スタン・ウィンストン(Stan Winston)(※6)の「クリーチャー」の要素と、「アニマトロニクスの動き」(※7)の要素を組み合わせることによって表現します。
この動画では、中盤から終盤にかけておもに「アニマトロニクススタイル」を表現しています。
※5:マイケル・ジャクソンが自身の「アニメーションダンス」の表現を確立していく過程において影響を受けた2人のレジェンドのうちのもう一人のレジェンド。「ストップモーションアニメーションスタイル」、「アニマトロニクススタイル」のオリジネーター。1983年から1997年までマイケルのパーソナルダンストレーナー(クリエイティブコンサルタント)として、ポッピングとアニメーションスタイルのすべてをマイケルに伝授した。また、マイケルの作品にはディズニーアトラクション体感型3D映画「キャプテンEO」(1986年)、映画「ムーンウォーカー」のSmooth Criminal(1988年)、ショートフィルム「ゴースト」(1996年)などに出演した。
※6:数々の映像特殊効果を生み出したレジェンド。アニマトロニクスとは、内部にロボットが組み込まれたメカニカルな骨格を持つ等身大の人形が、機械制御によってまるで生きているかのような動きを表現することのできる特撮技術のこと。スタン・ウィンストンが映画で手がけたアニマトロニクスの代表作として「エイリアン2」(1986年)、「ターミネーター2」(1991年)、「ジュラッシックパーク」(1993年)がある。また、マイケル・ジャクソンの作品にはショートフィルム「ゴースト」(1996年)へ監督としてたずさわった。
※7:アニマトロニクスは複合的に構成された機械を制御することによって駆動しているため、スムーズなモーションの間で時折「ひっかかりのあるぶれ」を生じることがある。この「ひっかかりのあるぶれをともなうメカニカルな動き」に着目して表現したスタイルが「アニマトロニクススタイル」。なお、ポッピン・タコの代表的表現の1つに「Tレックス」(T-Rex)があるが、これは映画「ジュラッシックパーク」に登場するTレックスのアニマトロニクスに影響を受けて表現している(※参照:YouTube)。
もう一つのスタイル
以上を踏まえ、アニメーションダンスには「もう一つのスタイル」として、ロボットスタイルの「表現の要素」を取り入れていないスタイルの「アニメーション」があります。
それがストップモーションアニメーションの「表現の要素」を取り入れてできた「ストップモーションアニメーションスタイル」です。
「ストップモーションアニメーションスタイル」はポッピン・タコが創り出したスタイルで、ストップモーションアニメーションの「滑らかさの中に細かくカクカクした独特な動き」を表現するところに特徴があります。
ストップモーションアニメーション独特の「細かい動き」は、レイ・ハリーハウゼン(Ray Hurryhausen)(※8)の「クリーチャー」の要素と、「ストップモーションアニメーションの動き」の要素を組み合わせることによって表現します。
この動画では、おもに「ストップモーションアニメーションスタイル」を表現しています。
※8:ストップモーションアニメーションを取り入れた数々の特撮映画を生み出したレジェンド。ストップモーションアニメーションとは、内部に骨格を持つ可動式ミニチュア人形の動くさまを1コマずつ変化させて撮影することによって、再生するとその人形がまるで生きているかのような動きを表現することができる、特撮技術を駆使した実写アニメーションのこと。ポッピン・タコの代表的表現の1つに一つ目巨人の「サイクロプス」(Cyclops)があるが、これはレイ・ハリーハウゼンが手がけた1958年公開の映画「シンバッド7回目の航海」(The 7th Voyage of Sinbad)に登場するサイクロプスに影響を受けて表現している。
「違い」のまとめ
以上を踏まえ、「アニメーションダンスとロボットダンスの違い」についてまとめると次のとおりです。
0. アニメーションダンスとロボットダンスの違い
「ロボットスタイル」を採用しているかそうでないかによって決まる。
1. アニメーションダンス
ダンスのジャンルの「アニメーション」を専門とするダンスのこと。ダンスの構成の中で「アニメーション」を表現する時は「ロボットスタイル」を採用していない(※)。
※ロボットスタイルの「機械的動作」という「表現の要素」を取り入れてできた「別物のスタイル」を採用している。
◇おもなスタイル
-01. リキッドアニメーションスタイル
「可動範囲の制限を解放したロボットの動き」の要素と、カートゥーンアニメーションの「パラパラ漫画を細かく滑らかに映し出した動き」の要素を組み合わせることによって表現するスタイル。
-02. アニマトロニクススタイル
スタン・ウィンストンの「クリーチャー」の要素と、「アニマトロニクスの動き」の要素を組み合わせることによって表現するスタイル。
◇もう一つのスタイル (※)
※ロボットスタイルの「表現の要素」を取り入れていないスタイルのこと。
-03. ストップモーションアニメーションスタイル
レイ・ハリーハウゼンの「クリーチャー」の要素と、「ストップモーションアニメーションの動き」の要素を組み合わせることによって表現するスタイル。
2. ロボットダンス
ダンスのジャンルの「ロボット」を専門とするダンスのこと。ダンスの構成の中で「ロボットスタイル」を採用して表現している。
◇おもなスタイル
-01. ロボットスタイル
動作の始動・停止の際に生じる機械特有の「ぶれ」を省略し、動作を「スッとはじめてピタッと止める」ことによって「スムーズに動くロボット」を表現するスタイル。
-02. ポッピンロボット
前述のロボットスタイルの「スムーズに動くロボット」の表現へポッピングの「身体を弾く」という「表現の要素」を取り入れて表現するスタイル。
次回について
以上が「アニメーションダンスとロボットダンスの違い」についての解説でした。
「アニメーション」(Animation)は、ロボットやアニメーションの特撮技術からインスピレーションを受けて創られた、「映像特殊効果」を身体で表現するスタイルです。
このスタイルは1984年公開の映画「ブレイクダンス」(Breakin’)によって世界中のストリートダンサーへと広まり、その後マイケル・ジャクソンが1980年代から90年代にかけて開催したバッドツアー(1987年)、デンジャラスツアー(1992年)、ヒストリーツアー(1996年)の3つのワールドツアーで披露したことによって一般の人々の目にも触れるようになりました。
「アニメーション」は、それ自体が「独立した意味を持つ」スタイル、として存在しているため、スタイルそのものが「表現」として成立しています。
その一方で、このスタイルの「表現の特徴」から、わざと変わったことをすることによって人目を引くような「奇をてらった動き」がアニメーションの表現、と勘違いされやすいスタイルでもあります。
わかりやすい例として、たとえばウェーブ(Waving)は、身体の各部位を自在にコントロールすることによって全身に波がうねるように表現する「スタイル」であり、「アニメーション」ではありません。
なぜなら「スタイル」はそれ自体が「独立した意味を持っている」ため、ウェーブは「ウェーブ」という「独立した1つのスタイル」として存在しているからです。
同様に、ティッキング(Ticking)は、等間隔に順を追ってパラパラ漫画のように表現する「スタイル」であり、「アニメーション」ではないのです。
つまりクリエイティブの観点からすると、「表現」であるアニメーションには当然ながら表現の骨格となる「表現コンセプト」があり、それを表現するための「ルール」がある、ということです。
これを踏まえ、「アニメーション」の表現に特化し、ダンスの構成の中で「アニメーション」をメインスタイルとして表現しているダンスが「アニメーションダンス」です。
第7回|アニメーションダンスの基礎
そこでシリーズ第7回目の次回は「アニメーションダンスの基礎」にスポットを当て、次の「3つのトピック」について詳しく解説していきたいと思います。
1. 代表的スタイル
2. 「アニメーションダンス」の条件
3. 「アニメーション」のおもなスタイル

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