オーディエンスを惹きつけるアニメーションダンスの構成テクニック

アニメーションダンスを習得するポイントを全12回にわたって解説していくシリーズの第11回目です。

オーディエンスを惹きつけるアニメーションダンスの構成テクニック

前回の解説

前回(第10回)の解説では、”アニメーションダンスとロボット”について解説しました。

【第10回】アニメーションダンスとロボット

アニメーションダンスとロボットダンスの動きの違い|やり方・コツ
ロボットの動きを取り入れた表現には主に3種類の表現があり、各々を使い分けて表現する事が求められます。

第11回目となる今回は、オーディエンスを惹きつけるアニメーションダンスの構成方法について解説します。

オーディエンスを惹きつける「ダンスの構成」とは

「ダンスの構成」とは、ダンスを表現するための設計図のようなものです。

漫画でいう”ネーム”、アニメでいう”絵コンテ”と同様、この「ダンスの構成」の良し悪しによってオーディエンスを惹きつけられる表現となるかならないかが決まります。

そのため「ダンスの構成」でやる事を、単に曲に振りを当てはめる事だけだと考えているうちは、いつまでたっても初心者の域から抜け出す事が出来ないでしょう。

もしあなたがアニメーションダンスを本当の意味で自分の表現としてつかみ取りたいと考えているのであれば、表現者の知的クリエイティビティ(創造性)によって、オーディエンスを惹きつけられるように戦略的にダンスを構成していく必要があるのです。

基本編

基本構成と各種スタイルの関係

アニメーションダンスの表現は、主にアニメーションダンス(※1)とアニメーションスタイル(※2)の2つに大別されます。

アニメーションダンスストリートダンスの一つの「ジャンル」で、アニメーションスタイル「ジャンル」のポッピングの中にある「スタイル」の一つです。

※1:今日のアニメーションダンスおよびその前身のオールドスクールアニメーションダンス

※2:オールドスクールアニメーションスタイル

アニメーションダンス

アニメーションダンス基本構成は、ポッピング、ウェーブ、ロボット、アニメーションの4種類のスタイルによって構成されています。

この基本構成へ表現者は曲に対する表現のイメージに合わせて、ティッキング、ストロボ、スローモーション、スネーク(コブラ)、フロアムーブ、バイブレーション、キングタットなどの各種スタイルをオプションで追加する事によってアニメーションダンスの構成を作っていきます。

特筆すべき点として、アニメーションダンスではエレクトリックブガルースタイルポッピン(ブーグスタイル)(※3)としてのポッピンスタイルは使わずに、ポッピングの”身体を弾く”という要素のみを利用して表現している点です。

※3:ポッピンスタイルの宗家家元のエレクトリックブガルーズ(Electric Boogaloos)が提唱しているダンススタイルの総称の事

アニメーションスタイル

アニメーションスタイルは、メインスタイルをポッピンスタイルとしたダンスの構成の一つにアニメーションスタイルがあります。

その基本構成はアニメーションダンスと同様、ポッピング、ウェーブ、ロボット、アニメーションの4種類のスタイルによって構成されています。

この基本構成へ表現者は曲に対する表現のイメージに合わせて各種スタイルを選択し、ダンスの構成を作っていきます。

このように、アニメーションダンスとアニメーションスタイルは、前者が「ジャンル」、後者が「スタイル」という違いはありますが、表現されるダンスの基本構成および各種スタイルは全て共通しているのが特徴です。

ダンスを構成する際のルール

アニメーションダンス

アニメーションダンスはメインスタイルを持っていないため自由にダンスを構成出来るように思うかもしれませんが、一つだけルールがあります。

それは、ダンスの構成の中にリキッドアニメーションスタイルのパートを入れる事です。

例えば、表現者自身はアニメーションダンスだと思って表現しているとします。

しかしそのダンスの構成内容を分解してみると、ポッピング、ウェーブ、ティッキング、スローモーション、バイブレーション、キングタット、フロアムーブの7つのスタイルとなっており、アニメーションパートのリキッドアニメーションスタイルが入っていません。

この場合、ストリートダンスのスタイルのルールの原則に基づくと、ダンスの構成の中にリキッドアニメーションスタイルのパートが入っていないのであれば、そのダンスをアニメーションダンスと見なす事は出来ず、また、それぞれのスタイルをひとまとめにして全体でアニメーションダンスと見なす事も出来ません。

つまり、どんなに表現するスタイルの数が多くても、また仮にポッピングにウェーブをスタイリングしたり、スローモーションにティッキングをスタイリングして別のスタイルとして表現しても、やっている事はポッピング、ウェーブ、ティッキング、スローモーション、バイブレーション、キングタット、フロアムーブの各種スタイルを単発で表現しているか組み合わせて表現しているだけであり、アニメーションダンスの表現がダンスの構成の中に別枠でないのであればアニメーションダンスには成り得ないのです。

アニメーションスタイル

アニメーションスタイルの場合のルールは2つあります。

一つは、メインスタイルをポッピンスタイルとする事、そしてもう一つは、ダンスの構成の中にストップモーション・アニメーションスタイルのパートを入れる事です。

ストップモーション・アニメーションスタイルのパートを入れる件については、前述したアニメーションダンスのダンスの構成の中にリキッドアニメーションスタイルのパートを入れるルールの解説内容と同様の理由です。

ダンスの構成

以上を踏まえて「ダンスの構成」を解説します。

ダンスを構成する上で一番大切な事は、表現者が音を聴いて解釈した身体表現がダンスの構成とリンクしている事です。

あらかじめ決めておいたダンスの構成と振りだけでしか踊れない人にならないように、即興においても瞬時にダンスの構成を行い、身体が自然に音に反応して踊れるところまでレベルを引き上げる事が出来ればベストです。

アニメーションダンスの構成

アニメーションダンスの構成は、基本構成であるロボット、ウェーブ、アニメーションのパートで構成されており、その構成のいずれかのパートでポッピングの要素を入れて表現していれば最低限のアニメーションダンスとしての構成が成立します(図1)。

そして、オプションを加えると図2のような構成例となります。

アニメーションスタイルの構成

アニメーションスタイルの構成は、メインスタイルであるポッピングを行う中で基本構成のウェーブ、ロボット、アニメーションのパートを入れていれば最低限のアニメーションスタイルとしての構成は成立します(図1)。

そして、オプションを加えると図2のような構成例となります。

応用編

“教科書的”で面白みのないダンスの構成からの脱出

前述のダンスの構成の【基本編】は、基本構成を踏まえた上で、曲に合わせて各種スタイルを当てはめていく構成方法についての解説でした。

これだけでもダンスの構成としては成立していますので、構成内のスタイルの技術の精度を上げる事によって一般的なアニメーションダンスとなります。

しかしながら、この状態はまだ未完成の状態なのです。

なぜなら、“技術レベルの底上げ”を行ったとしても、出来上がったダンスの構成は”教科書的”で面白みのない構成となっているからです。

それでは、この”教科書的”で面白みのないダンスの構成から脱出するためにはどうすれば良いのでしょうか。

それは、ダンスの構成へ面白みのあるダンスとなるような”しかけ”を研究し、効果的に取り入れる事です。

代表的なしかけの要素

私がダンスの構成の中で行っている代表的なしかけは、「視線誘導」「圧力」「歴史」の3要素です。

視線誘導

視線誘導とは、オーディエンスがダンスを見る時の目の動きを、表現者が意図的にダンスの動きで誘導していく事です。

例えば、ウェーブをイメージすると分かりやすいと思います。

ハンドウェーブで右手の指先から左手の指先へ流し、今度は左手の指先から頭を経由してボディーウェーブで足のつま先まで流す、というように、見る側はウェーブの波の山が流れていく動きを目線で追って見ています。

この表現はオーソドックスな基本中の基本の視線誘導ですが、達人クラスになると、例えば、モーションの途中で一度動きを止めて動きを再開したり、直近のモーションと脈絡のないモーションを差し込んでみたり、直近のモーションとの関係性を断絶して全く別のモーションへ切り替えるなど、視線誘導による表現者と見る側との巧妙な駆け引きが行われています。

圧力

圧力とは、ダンスを表現する際の強弱の展開の事です。

これは、漫画を読む時のページめくりのしかけの例が分かりやすいと思います。

漫画家が一番強調して描き込むコマというのは、漫画のページをめくった時に読者が一番最初に目に入る、見開きの右ページ上部に配置されている第一コマです。

この右ページ上部の第一コマで読者へ最大限のショック(見せ場)を与えます。

同時に圧力が一瞬解放されますので、左ページ下部の最終コマへ視線が動いていく方向に向かって徐々に圧力をかけていきます(だんだん次の展開に期待を持たせて高めていきます)。

そして、左ページ下部の最終コマで最高潮の圧力がかかったところでページをめくり、見開き右ページ上部の第一コマで再度最大のショックを与え、左ページ下部のコマへ視線が動いていく方向に向かって徐々に圧力をかけていくという事を繰り返します。

この「ショック→解放→圧力」の展開がダンスの構成においても行われているのです。

達人クラスになると、この圧力の展開の基本を崩し、例えば、一定の流れの展開の中で、見る側にこの流れでは次の展開はこうだろうと予想させておきながら予想を裏切り、見る側の意表を突く、というような駆け引きも行われています。

例えば、ダンスの表現で行われる場合は、モーションのフェイントをかける形で行い、音の場合はあえて拾う音と拾わない音を選別してリズムの取り方を崩すという形で行われます。

歴史

歴史とは、表現者のダンスを構成している”ダンスの歴史”の事です。

現代に創作される全ての作品や表現は、過去の歴史の作品や表現から引用し解釈した事を表現する事によって成立しています。

そして、クリエイティブの分野ではその道の”歴史”が「共通言語」となり、先行する歴史の文脈を踏まえた創作が不可欠となっています。

そのためクリエイティブの分野の一つであるダンスにおいても、優れたダンスの表現には表現者の背後に”ダンスの歴史”が入っており、見る側はそれを読み取る事が出来るようになっています。

表現者の背後にある”ダンスの歴史”

マイケル・ジャクソン

マイケル・ジャクソンのダンスを見ていると、その非常に洗練されたハイレベルなダンスの背後に”ダンスの歴史”が何層も重なっている事が読み取れます。

例えば、このステップはタップダンスの「フレッド・アステア」(Fred Astaire)で、このジャズダンスはウエストサイドストーリーの「ベルナルド」(Bernardo)、そしてこの小刻みな足捌きは「ジェームス・ブラウン」(James Brown)というようにです。

また、この身体の動きはサタデーナイトフィーバーの「ジョン・トラボルタ」(John Travolta)、つま先を立ててムーンウォーク(バックスライド)しているのは「ブガルー・シュリンプ」(Boogaloo Shrimp)、ストップモーション・アニメーションを彷彿させる細かい動きは「ポッピン・タコ」(Pop’N Taco)、というように、これら一つ一つがマイケル・ジャクソンの背後に”ダンスの歴史”として重なって存在しています。

今日のアニメーションダンス

同様に、2011年前後に登場した今日のアニメーションダンスも”ダンスの歴史”を読み取る事が出来ます。

例えば、流れるように動くロボットの動き(リキッドアニメーションスタイル)はオールドスクールアニメーションダンスの「ブガルー・シュリンプ」、全身ティッキングとスローモーションの動きは、オールドスクールアニメーションダンスの「フラットトップ」(Flattop)、キングタットからウェーブへの展開は「オールドスクールアニメーションダンスの手法を踏まえた展開」というようにです。

また、曲は1980年代のOld Skool Electroから続く現代のEDMの系譜である「Dubstep」、そして、Dubstepの曲調に合わせて音ハメするのは、1983年にポッピン・タコがマイケル・ジャクソンへ提案した”ダンスに空手サウンドのような効果音を加える表現手法”をデンジャラスツアー(1992年)のJamを経てショートフィルム「ゴースト」(1997年)で具現化した後に「90年代後半のヒップホップ系ストリートダンスで一般化した表現手法の踏襲」と読み取れます。

それから「時間の概念」の表現は、技の動きではなく”時間を自在に操作しているような演出”に比重を置いた今日のアニメーションダンスオリジナルの表現ですが、使われている技はスローモーション、全身ティッキング、リキッドアニメーションの既成のスタイルのミックスとなっています。

そして今日のアニメーションダンスの構成全体を通した展開は「既成のスタイルの流用&再構築」です。

このように、これら一つ一つがアニメーションダンスの表現者の背後に”ダンスの歴史”として重なって存在しています。

実践編

ダンスの構成の実際

以上を踏まえ、実際のダンスの構成例として私のダンスの動画を使って解説していきます。

まずはこの動画をご覧ください。

「視線誘導」、「圧力」、「歴史」の役割の関係

最初に構成全体における「視線誘導」、「圧力」、「歴史」の役割の関係について解説すると、曲のタイムラインに沿ってダンスを構成するのと同時進行で「歴史」を入れ、「視線誘導」によって”ダンスの歴史”のキーワードが見えてくるようにオーディエンスの目の動きを意図的に誘導し、「ショック→解放→圧力」の展開によって、ダンスの構成に強弱をつけて演出しています。

歴史

「歴史」を入れる事の目的は、表現者の表現するダンスが歴史の文脈のどこと繋がっているのかを表現者自身の意思によって表明する事にあります。

曲に合わせて各種スタイルを”振り”としてコピペし当てはめていくだけでもそれなりのダンスの構成となりますが、表現者の表現意図がより鮮明に反映された構成が「歴史」を入れたダンスの構成です。

今回取り上げた動画のように、振りではなく即興による一発撮りで撮影している場合も、曲のタイムラインに沿ってリアルタイムに”ダンスの歴史”を入れていきます。

“ダンスの歴史”を入れていくにあたり、アニメーションダンスの歴史の文脈でおさえておくべき重要人物は、リキッドアニメーションスタイルを創ったブガルー・シュリンプとストップモーション・アニメーションスタイルを創ったポッピン・タコ(Pop’N Taco)の2人です。

自分の表現するアニメーションダンスがストリートダンスの歴史の文脈を踏まえた「意味づけされたダンス表現」であるためには、この2人のどちらかの”ダンスの歴史”を入れるのが望ましいです。

今回はブガルー・シュリンプとポッピン・タコの2人を入れています。

例えば前半に入れた、ティッキングを織り交ぜて前進する動きの「ポッピン・タコ」、モーションを途中で一旦止めてから続きを行う「ブガルー・シュリンプ」というようにです。

また、海外だけでなく自国の歴史の文脈として、自国を代表する「SeeN」のハンドウェーブのオマージュを入れています。

そして後半では、ブガルー・シュリンプとポッピン・タコの代表的な技を”ダンスの歴史”として入れています。

それが、低い姿勢から「S字上昇型スネーク」を行うブガルー・シュリンプです。

ここからストップモーション・アニメーションの細かい動きへ展開し、終盤に「360度全方向回転型コブラ」のポッピン・タコを入れています。

視線誘導

今回取り上げた動画のダンスの構成の中に仕込まれている主なキーワードは、例えば前半におけるティッキングを織り交ぜて前進する動きの「ポッピン・タコ」、モーションを途中で一旦止めてから続きを行う「ブガルー・シュリンプ」、ハンドウェーブの「SeeN」です。

また、後半における主なキーワードは、低い姿勢から「S字上昇型スネーク」のブガルー・シュリンプ、その後に展開する細かい動きの「ストップモーション・アニメーションスタイル」、「360度全方向回転型コブラ」のポッピン・タコ、そしてダンスの構成全体を通して展開する「既成のスタイルの流用&再構築」の今日のアニメーションダンスです。

これらのキーワードをオーディエンス側から読み取れるように、表現者のダンスの動きによってオーディエンスの目の動きを意図的に誘導します。

圧力

「圧力」は、ダンスの構成の中に細かく仕込んで展開の強弱をつけた方が見る側も次の展開を期待しながら見る事が出来ます。

今回取り上げた動画においても前半、後半共に細かく仕込んでいますが、構成全体でいうと、後半のブガルー・シュリンプに入る直前で低い姿勢でモーションを止めるところに最大の圧力をかけ、低い姿勢から「S字上昇型スネーク」、そして「ストップモーション・アニメーション」の細かい動きへ展開するところにショックを設定しています。

ここでもう一度、この動画を見てみましょう。

表現者の知的クリエイティビティ(創造性)によって戦略的にダンスを構成していく事の本質について理解する事が出来たのではないでしょうか。

次にやるべき事

アニメーションダンスの「ダンスの構成」について理解した次にやるべき事は、アニメーションダンスの基礎が出来た先に取り組むべき事が何であるのかを理解する事です。

もしあなたがアニメーションの使い手としてオーディエンスに”凄い”と唸らせるパフォーマンスをやりたいと考えているのであれば、アニメーションダンスの基礎が出来た上で更に突き詰めてスキルを磨いていく必要があります。

そのスキルの磨き方とは何なのでしょうか。

そこでシリーズ完結編となる次回は、アニメーションダンスをレベルアップする方法について解説します。

【第12回】アニメーションダンスのレベルアップ方法

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それでは、またの機会にお会いしましょう。

KAIZOU NINGEN

ダンス研究家。専門はムーンウォークとアニメーションダンス。幼少期にマイケル・ジャクソンのメカニカルな動きを取り入れたダンスに影響を受け、1990年よりダンスの研究を始める。マイケル・ジャクソン没後10年特集番組へ情報提供(TBS「一番だけが知っている」:2019年)。

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