ポップダンス(ポッピング)とは|絶対おさえておきたい基本と練習
前回の解説
前回(第7回)の解説では、マイケル・ジャクソンにスポットを当てて解説しました。
【第7回】マイケル・ジャクソンのアニメーションダンス

第8回目となる今回は、アニメーションダンスとポッピングについて解説します。
ポップダンスとは何か
「ポップダンス」とは、ストリートダンスの世界では本来「ポッピング(Poping)」と呼ばれている、曲のビートに反応してポーズを形成した直後に身体の各部位を同時に弾いて表現するダンスの事です(※通称「ポッピン」、あるいは「ポップ」)。
このダンスはエレクトリックブガルーズ(Electric Boogaloos)のブガルー・サム(Boogaloo Sam)によって1976年に創り出されました。
アニメーションダンス(※1)やアニメーションスタイル(※2)には、これらのアニメーションを表現するために必須な4種類のスタイルがありますが、ポッピングはこの4種類のスタイルの一つであり最重要の位置づけとして君臨しています。
なぜなら、ポッピングはアニメーションダンスやアニメーションスタイルの表現の全ての核であり、ポッピング単体の表現だけでなく、ロボットの表現にもウェーブの表現にもアニメーションの表現にも、そしてその他の各種スタイルの表現にもポッピングの要素が大きく関わっているからです。
※1:今日のアニメーションダンスおよびその前身のオールドスクールアニメーションダンス
※2:オールドスクールアニメーションスタイル
ポッピングの2つの意味
ところで「ポッピング」という用語は、“詳しい事は知らなくてもそうなっているから”というように、まるで何かの公式のような意味合いで使用される事があり、中にはその用語が使われた結果に対して疑問に思っている人もいると思います。
例えばポッピングが「身体を弾くように表現するダンスの事」なのであれば、なぜ身体を弾かない「ウェーブ」がポッピングの一つと言われているのでしょうか。
また、マイケル・ジャクソンは1988年に出版された自伝「ムーンウォーク」(※3)において、ムーンウォークは”ポッピング”というタイプのステップから生まれたもの、と語っています。
マイケル・ジャクソンの表現するムーンウォークは、月面上を前に進むように後ろへ滑らかに進んでいく表現であり身体を弾くようにステップする表現ではありませんが、この場合の”ポッピング”とは何を意味するのでしょうか。
先にこれらの答え合わせをしておくと、「ウェーブ」がポッピングの一つであるという事も「ムーンウォーク」がポッピングから生まれたという事もどちらも正しいです。
しかし「どちらも正しい」と分かっても、なぜか違和感を感じてしまうのはなぜでしょうか。
それは前提として私達はポッピングにはストリートダンスにおける「スタイル」としてのポッピングと「ジャンル」としてのポッピングの2つの意味を持っているという事を理解しておく必要があり、この2つを分けて考える必要があるからです。
※3:マイケル・ジャクソン著、田中康夫訳、河出書房新社、2009年
そこで今回は、前半ではポップダンス(ポッピング)をやるなら絶対おさえておきたい「歴史」および「ジャンルとスタイルの違い」を、そして後半ではポッピングを習得する上で絶対おさえておきたい「音の取り方」や「身体の使い方の基本と練習方法の考え方」をそれぞれ解説していきたいと思います。
ポッピングの歴史
1970年代から1980年代中期にかけて起こったストリートダンスブームは、次々と新しいストリートダンスのスタイルが開発された時期でもありました。
それを私達はオールドスクールストリートダンスのジャンルである、ロッキング(Lockin’)、ブレイキング(Breakin’)、ポッピング(Poppin’)の3つのジャンルとして認識しています。
それでは「ポッピング」という名称がオールドスクールストリートダンスの3大ジャンルの1ジャンルと成り得たのはなぜなのでしょうか。
それは皆があるダンスチームの独創的ダンスパフォーマンスに触発された事に始まり、後に映画「ブレイクダンス」(Breakin’)へとつながる一大ムーブメントへと発展していったからです。
それがエレクトリックブガルーズのブガルー・サムが1976年に創り出した「ポッピング」と「ブガルー」の2つのスタイルを中心とするダンスパフォーマンスでした。
エレクトリックブガルーズの結成
エレクトリックブガルーズは、1976年にブガルー・サムとトイマン・スキート(Toyman Skeet)(※4)のグループと、ティッキン・ウィル(Tickin Will)とツイスト・オー・フレックス・ドン(Twist-o Flex Don)のグループが出会い、ブガルー・サムがエレクトリックブガルーズの前身となるエレクトロニックブガルーロッカーズ(Electronic Boogaloo Lockers)を1977年に結成した事から始まりました。
※4:アルバート・プレイダー(Albert Prader)。当初のストリートネームはタイダル・ウェーブ・スキート(Tidal Wave Skeet)
ポッピングについて
表現の中核となるスタイルの一つであるポッピングは、曲のビートに反応してポーズを形成した直後に身体の各部位を同時に弾いて表現するスタイルです。
このスタイルは、1960年代中期から後期にかけて流行した”ジャーク”という動きや教会で人々がゴスペルに合わせて”シェイク”している時の動きからインスピレーションを得て考案されました。
ブガルーについて
また、ブガルーは、腰・膝・頭などの身体のあらゆる部分のロールを使い、移動する事によって流動的に表現するスタイルです。
このスタイルのインスピレーションの源は、ルーニー・テューンズなどのカートゥーン・アニメーションに登場するTVアニメのキャラクターが「骨が無いように動いているシーン」からヒントを得て考案されました。
全米に広がるに至った大きな背景
これらのスタイルを中心としたエレクトリックブガルーズのダンススタイルが全米に広がるに至った大きな背景は、当時ダンサー兼コレオグラファーで、ディスコバンド「Jeff Kutash and the Dancin’ Machine」を結成していたジェフ・クタッシュ(※5)に1978年に見出された事です。
この事によってエレクトリックブガルーズは1978年にTV出演のチャンスをつかむ事となります。
※5:後にマイケル・ジャクソンのThis Is It ツアーのディレクターを務めていた人物
TVメディアへの出演
エレクトリックブガルーズが最初にTVメディアに登場したのは、1978年11月に放送された「Midnight Special」、「Hot City TV Show」の2つのTV番組です。
この2つの番組は、ポッピングとブガルーの両スタイルが全米のTVで初めて放送されたと共に、クリーピン・シッド(Creepin Sid)が初めてバックスライドを披露した番組となりました。
続いてエレクトリックブガルーズは、翌年1979年6月に放送されたディスコバラエティーショーのTV番組「Kicks TV Show」に出演し、地道にキャリアを積み重ねていきます。
このようにメディアへの露出が増えていったエレクトリックブガルーズのダンススタイルは、地元の新聞にも取り上げられるなど徐々に知名度を上げていき、本拠地のカリフォルニア州ロングビーチを中心としたウエストコースト(西海岸)のストリートダンサー達の間で影響が広まっていきます。
ジェフリー・ダニエル
そしてその影響を受けたダンサー達の中にジェフリー・ダニエル(Jeffrey Daniel)がいました。
ジェフリー・ダニエルのキャリアのスタートは、当時全米で最先端のストリートダンスを発信していた音楽番組「ソウルトレイン」のバックアップダンサーとしての活動でしたが、やがてキャスパー・キャ二デイト(Casper Canidate)とクーリー・ジャクソン(Cooley Jaxson)と共にダンスチームを組み、1979年11月に「Jeffrey Daniel & The Eclipse」としてソウルトレインへ出演します。
このパフォーマンスは、ブガルー・サムが創り出した”オリジナル・ムーンウォーク”(Original Moonwalk)を原型とし、後に1988年公開のマイケル・ジャクソン主演の映画「ムーンウォーカー」で披露した回転ムーンウォークの直接の原型となるムーブをジェフリー・ダニエル本人が披露した歴史的価値のあるパフォーマンスでした。
特筆すべきは、このパフォーマンスを行う前にソウルトレインの司会のドン・コーネリアスから”影響を受けたダンス”について尋ねられた際にジェフリー・ダニエルが答えた時のシーンにおいて、ジェフリー・ダニエルは、“そのダンスは”ブガルー”と言ってロングビーチのエレクトリックブガルーズというグループをオリジナルとします”と答え、続けて”それは”ポッピンスタイル”です”と答えていた事です。
このようにポッピングは、トレンドをいち早くキャッチし、自身のチームのダンスに取り入れたストリートダンサー達によってソウルトレインへ持ち込まれたのがきっかけとなり、後のエレクトリックブガルーズの出演へとつながる事となります。
ソウルトレインへの出演
ジェフリー・ダニエル達の出演後、同年の別の回でエレクトリックブガルーズが満を持して登場します。
この時司会のドン・コーネリアスは、出演したブガルー・サム、ポッピン・ピート(Popin` Pete)、ロボット・ダン(Robot Dane)、パペット・ブーザー(Puppet Boozer)、クリーピン・シッドの5人を讃え、“この非常に独創的な若者達は、大変人気が高まっているダンススタイルを考案しました。それは「ポップ」、「ブガルー」(そして「クリーピン」)と呼ばれています”という主旨の内容をTVの前の視聴者へ向けて発表したのでした。
このエレクトリックブガルーズのパフォーマンスは、ポッピングやブガルーと共にバックスライドやサイドウォーク、そしてバイブレーションなどのスタイルも披露したストリートダンスの歴史に残るパフォーマンスでした。(※6)
これに刺激を受けたストリートダンサー達によって、スネーキング(1979年)、キングタット(1980年)、ウェーブ(1982年)、アニメーション(1983年)などのスタイルが次々と開発されていく事となります。
※6:エレクトリックブガルーズは1979年に2回ソウルトレインに出演。初出演の回の映像はブラックとシルバーの衣装を着用
エレクトリックブガルーズの影響を受けたストリートダンサー
前述のジェフリー・ダニエル(ロサンゼルス出身)以外にも、エレクトリックブガルーズのダンススタイルに大きな影響を受けたロングビーチ周辺を出身とするストリートダンサー達がいました。
例えばブガルー・シュリンプ(Boogaloo Shrimp)は、ロングビーチのすぐ隣のウィルミントン出身であり、ポッピン・タコ(Pop’N Taco)もロングビーチに近いロサンゼルス出身です。
また、エレクトリックブガルーズと双璧をなすブーヤトライブ(Boo Yaa Tribe)兄弟達も、ウィルミントンとロングビーチに隣接するカーソン出身です。
一方、イーストコースト(東海岸)では、エレクトリックブガルーズのポッピンスタイルやウエストコーストで誕生した各種スタイルの影響を受けて、1984年公開の映画「ビート・ストリート」(BEAT STREET)でニューヨーク・シティ・ブレイカーズのミスターウェーブ(Mr. Wave)が披露していた立ち技のパフォーマンスに代表されるエレクトリック・ブギー(Electric Boogie)というダンススタイルが登場しています。
ドキュメンタリー映画「Breakin’ ‘n’ Enterin’」
エレクトリックブガルーズのソウルトレイン初出演から4年後の1983年、ウエストコーストのストリートダンスシーンに焦点を当てたドキュメンタリー映画「Breakin’ ‘n’ Enterin’」が公開されます。
当時のウエストコーストのストリートダンスシーンは、エレクトリックブガルーズの影響が色濃く反映されており、イーストコースト(東海岸)のストリートダンサー達がブレイキングを重視したフロアムーブが中心だったのに対し、ポッピングやロッキングなどの立ち技を重視していたのが特徴的でした。
このドキュメンタリー映画は翌1984年公開の映画「ブレイクダンス」が制作されるきっかけとなった映画で、多くのストリートダンサーが登場する中、シャバドゥ(Shaba Doo)、ブガルー・シュリンプ、ポッピン・タコなど、後に映画「ブレイクダンス」の主要キャストとして出演する事となるダンサーも登場しています。
ポッピン・タコによるポッピングの解説
このドキュメンタリー映画「Breakin’ ‘n’ Enterin’」には、本編でカットされたポッピン・タコによるポッピングの解説シーンがあります。
Popping is one of the best unique style a street dancing…(ポッピングはストリートダンスの中で最も特異なダンスの一つである)から始まるこの解説を要約すると次のような内容となります。
アニメーション(スタイル)というのは例えば、ウェーブ(ウェービング)、これは身体を(コントロールして)流れる水のように表現する事も出来るが、(見せ方によっては)カートゥーン・アニメーション(のようにフルアニメーションに比べてパラパラ漫画を細かく滑らかに映し出した動画)のように見せる表現も出来る。
また、コブラは(カートゥーン)アニメーションのように(胸を)ロール(しながらコントロール)して自分自身をスネークのように表現し、(アニメーションスタイルの)他にキングタット(エジプシャン)というスタイル、そしてまた別のスタイルとしてヒッティングというスタイルがある。
ヒッティングは腕、首、あご、足、特に足は動かし続けるのがポイントで、自分達の(オリジナル)スタイルとしては(腕や手首を2回続けてヒッティングする)ダブルスタイルというのがある。
それから胸(を前方にヒッティングするの)はボッピングというスタイル、そして(身体の各部位を弾いてポーズを形作りながら身体を動かす)ポップスタイル(ポッピング)、(秒間のコマ数を少なくした)カートゥーン・アニメーション(に見られるパラパラ漫画のような動き)のように見せるティッキングがある。”
この解説の重要な点は、ストリートダンスの中心にいたダンサー達の間では1983年時点で既にポッピングをストリートダンスの「ジャンル」として捉えており、その配下に並列する様々なスタイルがある中の一つに”ポップスタイル”という、「スタイル」としてのポッピングが位置づけられていたという点です。
「ジャンル」のポッピングの中身について
ブーグスタイルとそれ以外との区分とは
「ジャンル」のポッピングの中には、エレクトリックブガルーズが創り出した、いわゆる”ポッピンスタイル”を構成する各種スタイルと、エレクトリックブガルーズ以外が創り出した、例えばスネーク、ウェーブ、キングタット、アニメーションなどの各種スタイルがひとまとめになっています。
そのためオリジネーターのエレクトリックブガルーズは、自身が創り出したスタイルとエレクトリックブガルーズ以外が創り出したスタイルとを区別して、自身が創り出したスタイルの事を“エレクトリックブガルースタイルポッピン(ブーグスタイル)”と呼んでいます。
エレクトリックブガルースタイルポッピン(ブーグスタイル)の中には、「スタイル」と「ムーブ」があります。
「スタイル」として代表的なのは、ポッピング、ブガルー、ティッキング、スケアクロウ、パペット、トイマンなどです。
これらは“それぞれが独立した意味を持っているオリジナルスタイル”であるため、エレクトリックブガルーズのダンスを構成するスタイルとして位置づけられています。
このうちポッピンスタイルとブガルースタイルは、エレクトリックブガルーズのダンス表現の”核”となるスタイルと位置づけられているスタイルであり、エレクトリックブガルーズのメンバーはこのどちらかのスタイルをメインスタイルとしています。
そしてその配下には「ムーブ」があり、“核”となるスタイルを象徴するムーブや、メンバーが独自で創り出し、そのメンバーが個人で使用しているムーブがあります。
例えば、”核”となるスタイルを象徴するムーブには、ポッピングのフレズノ、ブガルーのブガルー・ロールなどがあり、メンバーが他の要素からインスピレーションを受けて独自に創り出し、個人で使用しているムーブには、ポッピン・ピートのクレイジーレッグス、スパイダーマンなどがあります。
ファンクスタイル
エレクトリックブガルースタイルポッピン(ブーグスタイル)には、もう一つのカテゴリーがあります。
それが「ファンクスタイル」(Funk Style)です。
ポッピン・ピートが1999年に提唱した名称で、エレクトリックブガルーズのダンスの音楽のルーツがFunkである事から名付けられました。
「ファンクスタイル」とカテゴライズする時は、エレクトリックブガルーズと同じく音楽のルーツがFunkであるザ・ロッカーズのロッキングも含まれます。
つまり、ザ・ロッカーズのロッキングとエレクトリックブガルーズのエレクトリックブガルースタイルポッピン(ブーグスタイル)の総称が「ファンクスタイル」です。
ポッピン・ピートから学ぶべき事
ポッピン・ピートについて
ポッピン・ピートはポッピングの宗家家元の「エレクトリックブガルーズ」として、ストリートダンスの黎明期(れいめいき)からストリートダンスシーンの中心で活躍して来た”生き証人”であり、現在も現役として活躍する一方、エレクトリックブガルースタイルポッピン(ブーグスタイル)の世界普及に努めているレジェンドです。
ポッピン・ピートの凄さ
ポッピン・ピートのソロパフォーマンスを見ると分かるように、ポッピン・ピートの凄さはいつ見ても代わり映えのしないオールドスクールの化石と化したダンサーなのではなく、時代と共に常に進化し続けているダンサーである事です。
ポッピン・ピートのダンスは、エレクトリックブガルーズがこれまで創り出してきた数々のスタイルやムーブを”振り付け”として忠実に再現したものを披露しているのではなく、これらを全て自分のものとしてつかみ取った上で一度解体して再構築し、常により進化したポッピンスタイルとして表現し続けているところにレベルの高いセンスとレジェンドとしての生き様を感じます。
ポッピン・ピートのメッセージから読み取る事とは
ポッピン・ピートは過去のインタビューにおいて、”鏡の前で振り付けするのではなく自分の頭で感じた事を表現するように踊ってほしい”とメッセージしています。
私達がダンスを表現する場合、曲に合わせてポッピングやロボットやウェーブなど、既成の各種スタイルの中からダンスの構成へ当てはめる事によってダンスを表現していますが、既成のスタイルをただトレースするようにダンスの構成へ当てはめるのではなく、もう一段高いレベルの視点に立ち、これらを使いこなした上で自分の頭で感じた事を表現する事の大切さを、ポッピン・ピートは自らのパフォーマンスを通じて、ジャンルの枠を超え、ストリートダンスに共通する大切な事として現在もメッセージし続けているのだと私は読み取っています。
ポッピングの音の取り方
ポッピングで一番重要な事
アニメーションダンスにおけるポッピングの使われ方は、エレクトリックブガルースタイルポッピン(ブーグスタイル)としての使われ方と、ポッピングの持つ”身体の各部位を弾く”という表現の特徴を利用し、アニメーションスタイルのパートで使う要素としての使われ方、そして、他のスタイルとポッピングを組み合わせて使う使われ方の3種類があります。
ポッピングのやり方については十分過ぎるほどの情報が溢れている今日ですが、その中で最も重要な事は、音をよく聴いて踊る事です。
スキーター・ラビットの話
エレクトリックブガルーズのスキーター・ラビット(Skeeter Rabit)は、ブガルーをメインスタイルとしていたレジェンドです。
そのスキーター・ラビットが、過去のインタビューにおいて”音をよく聴いて踊る事”について話していた事が非常に的を得ているため、その概要を紹介します。
Aのダンサーはムーブを多く持っているがリズムが全く無い、Bのダンサーはムーブは持っていないがリズムが完璧である。
どちらが優れたダンサーかといえば、当然Bのダンサーである。
なぜなら、これはダンスであり、つまり、音楽と動きが一体になって初めてダンスと呼べるから。
エレクトリックブガルーズにとって最も大切なものは音楽であり、我々は音楽に合わせてダンスを踊るべきだ。”
この話はスキーター・ラビット個人の私見ではなく、エレクトリックブガルーズに限定された事でもなく、またポッピングという1スタイルに限定された事でもない、ストリートダンス全体について当てはまる事です。
ポッピングにおける音の取り方のタイミング
音をよく聴き、音に合わせてダンスを踊るためには、ダンスのムーブを沢山覚えるよりも最優先でポッピングの”音取り”について理解しておく必要があります。
身体を弾くカウントの基本について
図1は、一般的な8カウントのビートの波形図です。
簡単に見方を説明すると、波形図にナンバリングしている1から8までの番号がカウントを示しており、、波形の振れ幅が小さいと音量が小さく、大きいと音量が大きくなる事を示しています。
これを踏まえ、曲のビートに反応してポーズを形成した直後に身体の各部位を同時に弾くポッピングでは、奇数カウントのところで身体の移動兼ポーズを形成し、偶数カウントのところで身体を弾くのが基本です。
身体を弾くタイミングについて
今度は具体的に偶数カウントのどこで身体を弾けば良いのかについて見ていきたいと思います。
図2は、偶数カウントの「2」を拡大した波形図です。
ポッピングの音の取り方(リズムの取り方)には“早取り”と”遅取り”があり、多くの人がやってしまいがちなのが”早取り”です。
“早取り”とは、音が聞こえ出すビートの波形の始まりのタイミングのところで身体を弾く事によって音と身体がリンクしなくなる現象の事で、このタイミングで身体を弾いてしまうと体感的にビートの音が鳴り終わるよりも身体を弾く動きの方が早く終わってしまう現象が起きます。
そのためポッピングでは”遅取り”を鉄則としています。
それではどのタイミングで身体を弾けば良いのでしょうか。
それは、音が聞こえ出した少し後の、ビートの波形が最高潮に達するところに合わせて身体を弾き始めるのが”遅取り”のベストタイミングです。
以上の事を頭でイメージしながら音を聴いて身体に馴染むまで繰り返し練習していく事で、音取りの感覚がつかめるようになれる事と思います。
ポッピングのやり方
ポッピングを習得する上での本質とは
ポッピングを習得するにあたり、まず大前提として、「フレズノ」や「ツイスト・オー・フレックス」などの「型」(ムーブ)をトレースする事がポッピングを習得する上での本質ではないという事を理解しておきましょう。
なぜなら、ポッピングを習得した先の上達の着地点とは、「型」を絶対的手本としてトレースし、その「型」に出来るだけ近づけるように再現する事ではなく、「音に反応してどのような体勢からでもポッピングで身体を弾いて自在に踊る事が出来るようになる事」であるからです。
例えば「フレズノ」はポッピン・ピートがレクチャーするポッピングの基礎練習によく登場する「型」(ムーブ)です。
この「フレズノ」というムーブがなぜよく取り上げられるのかというと、オリジネーターのブガルー・サムがポッピングを創り出した最初期の記念碑的ムーブであるという事もさる事ながら、「ポッピングで身体の各部位を使用する際に、その各部位を総動員して弾く感覚が最もつかみやすいムーブであるから」です。
そのためポッピングの練習では「型」をトレースする事に主眼を置くのではなく、それよりも「型を通してポッピングで踊るための身体の使い方を学ぶ」という事がポッピングを習得する上での本質であり、実践的で実のある練習となります。
ポッピングの仕組み・練習方法の考え方について
これを踏まえ、「身体を弾く原動力となるパワーがどこから生み出されるのか」について考えていきましょう。
ポッピングは「筋肉のコントロール」です。
そして筋肉をコントロールしているのは「神経」です。
さらにその神経をコントロールしているのは「脳」です。
つまり何が言いたいのかというと、脳から送信された信号が神経を介して筋肉へ伝達される事によって「ポッピングの身体を弾く原動力となるパワーが生み出されている」という事です。
そのため、ポッピングを始めて間もない初心者の方が練習をする場合は、初めから筋肉を弾こうとするよりも、まずは自分の身体で動かしたい部位の神経に直接働きかけるように「神経と筋肉をつないでいく」事をイメージして「筋肉を動かす」という感覚をつかんでいくところから始める事をおすすめします。
理想的なポッピングの「弾く」とは
どの部位で身体を弾くにしてもこれだけは徹底したい”ポッピングにおける「弾く」の原則”があります。
それは「一瞬力を入れて弾いたら瞬時に力を抜く」です。
なぜなら「キレのあるポッピング」は、瞬間的に力を入れて弾いたその瞬間にきれいに力が抜けていく事によって実現されるからです。
そのため、もしあなたが「キレのあるポッピング」を習得したいのであれば、練習の段階から「弾いた後に力を入れ続けたまま」ではなく、「一瞬力を入れて弾いたら瞬時に力を抜く」を意識的に取り組むようにしましょう。
ポッピングにおける「同時に弾く」事の重要性
ポッピングは「曲のビートに反応してポーズを形成した直後に身体の各部位を同時に弾いて表現するダンス」です。
ポッピン・ピートも過去のインタビューで言及している事ですが、ポッピングで身体を弾いて踊る際は、原則、身体の各部位を「同時に弾く」事がポイントで、例えば腕だけ、あるいは足だけなど、部位を単独で弾く事に集中し他の部位をおろそかにしてしまう事はNGとなっています。
そのため初心者の方が練習する時も、よく音を聴き、曲のビートに合わせ、身体の各部位を総動員して「同時に弾く」事を意識しながら取り組むようにしましょう。
アニメーションダンスでの身体の弾き方
一方、アニメーションダンスやアニメーションスタイルを表現する際は、「ポッピング」というスタイルそのものを表現するのではなくポッピングの持つ”身体の各部位を弾く”という表現の特徴を利用して表現するため、「個別に弾く」事が求められます。
また、身体を弾く大きさに関して、「ポッピング」は各部位を同時に弾いた時に「大きければ大きいほど良い」のに対し、アニメーションダンスやアニメーションスタイルでは、個別に部位を単独で弾いた時に「細かければ細かいほど良い」です。
もちろん個別に部位を単独で弾いた時にその弾く大きさが「大きければ大きいほど良い」という事は言うまでもありません。
ポッピングで使用する主要部位について
以上を踏まえ、ポッピングで使用する主要部位をまとめると次の6箇所となります。
①上腕の後ろ(上腕三頭筋)
②手首(腕橈骨筋)
③首(胸鎖乳突筋)
④胸(大胸筋)
⑤腹筋(腹直筋)
⑥ももの前・後ろ(大腿四頭筋・大腿二頭筋)
実際には他にも使用する部位はありますが、まずはこれら6箇所の部位を確実に弾けるようになる事を最優先に練習すると良いでしょう。
①上腕の後ろについて
腕から指先にかけての力強いポッピングを生み出すためには、上腕の後ろにある「上腕三頭筋」を使ったコントロールが不可欠です。
練習する際のポイントとしては、この「上腕三頭筋」と次に解説する前腕の「腕橈骨筋」(わんとうこつきん)とを連携する感覚をつかむところから始め、最終的には「上腕三頭筋」から「腕橈骨筋」を介して、手首→手のひら→指先へ伝達した後、指先からきれいに力が抜けていく感覚をつかむ事を意識しながら練習すると良いでしょう。
②手首について
ここでの手首とは「手のひらから指先」の部位を含んでおり、これらの部位をポッピングで「弾く」ためには、前腕の「腕橈骨筋」を使ったコントロールがポイントとなります。
「腕橈骨筋」とは、腕を下げた状態から手の甲を上にして、前腕を持ち上げた時に浮き上がって来る筋肉の事です。
練習する際のポイントとしては、この「腕橈骨筋」からポッピングの「弾く」パワーが生み出され、手首を介して手のひらから指先へ伝達し、指先からきれいに力が抜けていく、という感覚をつかむ事を意識しながら練習すると良いでしょう。
③首について
ここでの首とは「首の前部、あご、頸椎(けいつい)、頭」の部位を含んでいます。
これらの部位を動かす起点となっているのが「胸鎖乳突筋」(きょうさにゅうとつきん)です。
「胸鎖乳突筋」は首の前に力を入れると両サイドに出てくる「すじ」の事です。
練習する際のポイントとしては、この「胸鎖乳突筋」を介してあご、頸椎、そして頭へ伝達し、頭からきれいに力が抜けていく感覚をつかむ事を意識しながら練習すると良いでしょう。
④胸について
胸の筋肉の「大胸筋」は筋肉の中でも大きい筋肉の部類に入るため、上半身の力強いポッピングを生み出すためには「大胸筋」を使ったコントロールが不可欠です。
ポッピングで「大胸筋」を使う際は、「大胸筋」を前に突き出して弾くと同時に裏側にある背中の筋肉(広背筋)とも連携します。
練習する際のポイントとしては、「大胸筋」と「広背筋」で連携した身体の弾きを最終的には頭へ伝達し、頭からきれいに力が抜けていく感覚をつかむ事を意識しながら練習すると良いでしょう。
⑤腹筋について
体幹をコントロールする筋肉の「腹直筋」は、筋トレで腹筋をトレーニングする際に必ず使用する部位のため、「腹直筋」を使っているという意識をする事自体は比較的簡単に出来ると思います。
ただ、筋トレに慣れていると、どうしても「腹直筋」に力を入れながら収縮する事に意識が行ってしまい、「弾く」というイメージがつかみにくいかもしれません。
そのため練習する際のポイントとしては、前述した”ポッピングにおける「弾く」の原則”に則り、「腹直筋」に力を入れながら収縮するのではなく「一瞬収縮する方向に力を入れて弾いたら瞬時に力を抜く」という感覚をつかむ事を意識しながら練習すると良いでしょう。
⑥ももの前・後ろについて
ももの筋肉は筋肉の中でも一番大きい筋肉です。
そのため下半身の力強いポッピングを生み出すためにはももの筋肉を使ったコントロールが不可欠となります。
ももの前の「大腿四頭筋」とももの後ろの「大腿二頭筋」は「膝」の関節を屈伸する際に使用します。
ポッピングにおける膝の関節の屈伸は、膝を緩めた状態から「一瞬前に出して一瞬で戻す」、あるいは「一瞬伸ばして一瞬で戻す」ですが、よく使うのは後者です。
練習する際のポイントとしては、ポッピングの際にももの前の「大腿四頭筋」とももの後ろの「大腿二頭筋」を介して、頭の方向へ伝達し、頭からきれいに力が抜けていく感覚をつかむ事を意識しながら練習すると良いでしょう。
また、ケガの予防のため、膝を一瞬伸ばす動作の際に膝の関節を伸ばしきらないように行う事に気をつけながら行う事もポイントです。
ポッピングで身体を弾いた時に伝達するパワーの流れ
最後に、ポッピングで身体を弾くとどのように各部位へ伝達し、キレのある力強いポッピングを生み出す事へとつながるのかについてまとめます。
①上腕の裏(上腕三頭筋)→②前腕(腕橈骨筋)→手首・手のひら・指先
③首(胸鎖乳突筋)→あご→頸椎→頭
④胸(大胸筋)・背中(広背筋)→頭
⑤腹筋(腹直筋)→頭
⑥ももの前・後ろ(大腿四頭筋・大腿二頭筋)→上半身→頭
上腕から指先までの流れについて
①の「上腕の裏(上腕三頭筋)→②前腕(腕橈骨筋)→手首・手のひら・指先」の流れは一つの流れとして成立していますので、この流れをイメージして上腕から指先までのポッピングの練習をしましょう。
頭への流れについて
特筆すべきは③以降の「頭への流れ」についてです。
頭への流れについては、③の「首(胸鎖乳突筋)→あご→頸椎→頭」をメインとしつつも、④の胸(大胸筋)・背中(広背筋)からの流れと⑤の腹筋(腹直筋)からの流れによって頭へ伝達するパワーが積み上げられます。
そして⑥のももの前・後ろ(大腿四頭筋・大腿二頭筋)では原則、下半身のポッピングを担いますが、そのパワーは上半身へ伝達し最終的には頭へ伝達しますので、ここでも頭へ伝達するパワーが積み上げられます。
キレのある力強いポッピングを生み出すための流れ
以上のように、これら①から⑤の各部位を同時に弾いた時、ポッピングで生み出されたパワーが瞬間的に上腕から指先、および足・腹筋・胸・首から頭へと行き渡り、かつ各パワーの積み上げによる相乗効果によって、キレのある力強いポッピングを生み出す事へとつながっていくのです。
次にやるべき事
ポッピングについて理解した次にやるべき事は、アニメーションダンスとアニメーションスタイルのウェーブの違いについて理解する事です。
身体をコントロールして流れる水のように表現するウェーブダンス(ウェービング)には、固有のスタイルとしての”ウェービンスタイル”と、他のスタイルと組み合わせたウェーブの”派生スタイル”の他に、アニメーションのウェービンスタイルがあります。
このアニメーションのウェービンスタイルの表現には、アニメーションダンスとアニメーションスタイルの2種類があり、それぞれ表現する内容が異なります。
そのアニメーションダンスとアニメーションスタイルのウェーブの違いとは何なのでしょうか。
【第9回】アニメーションダンスとウェーブ

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アニメーションダンスを習得するポイントを全12回シリーズで解説しています。
全12回の解説でアニメーションダンスに必要な基礎知識を体系的にまとめているため、第1回から第12回までの解説内容を理解する事によって、全体像を捉えた上でアニメーションダンスに取り組む事が出来るようになります。

それでは、またの機会にお会いしましょう。